世界で最も成功した経営者の一人、アップルのティム・クック氏。彼が動くとき、そこには必ず「数字以上の意味」が隠されています。
2025年12月、冷え込む市場を驚かせるニュースが飛び込んできました。クック氏が、自らが取締役を務めるナイキの株式を約300万ドル（約4億5,000万円）分、自腹で買い増したというのです。
現在のナイキは、中国市場での苦戦や株価の急落など、決して「絶好調」とは言えません。むしろ、多くの投資家が不安に駆られて手を離し始めているタイミングです。そんな中、なぜ彼はあえて火中の栗を拾うような行動に出たのでしょうか？
単なる資産運用ではない、この「ガチすぎる買い増し」の裏側に隠された、巨大企業の再起とクック氏の次なるキャリアへの布石を読み解いていきましょう。
Source:ロイター通信
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「ナイキは終わったのか？」という不安を、一瞬でかき消した一通の報告書
ナイキの株価が13%も暴落した直後、クック氏が5万株を追加購入したという事実は、投資家の間に走った戦慄を「期待」へと変えるのに十分な衝撃でした。
私たちが普段、ネットニュースで目にする「有名人の株購入」とは重みが違います。彼は2005年からナイキの内部を知り尽くしているシニア独立取締役です。つまり、誰よりもナイキの「弱点」と「隠された武器」を理解している人物なのです。
今のナイキに対して、多くのユーザーが「最近、ワクワクする新作がないな」「テック系のシューズに押されているのでは？」という漠然とした不安を感じているかもしれません。しかし、クック氏はこの下落を「一時的な調整」ではなく「絶好の買い場」だと判断しました。
これは、ナイキというブランドの底力を信じているからこそできる、究極の「逆張り」です。彼のような合理主義者が、感情だけで300万ドルを投じるはずがありません。
盟友エリオット・ヒルの復帰と「Win Now」戦略への期待
今回の購入の背景には、2024年10月にCEOとして復帰したエリオット・ヒル氏への絶大な信頼があります。
ヒル氏はナイキで30年以上キャリアを積んだ、いわば「ナイキのDNAを知り尽くした男」です。前任者の時代に希薄になってしまった卸売業者との関係再構築や、イノベーションの加速を掲げる彼の「Win Now（今すぐ勝つ）」戦略。
クック氏は、アップルでスティーブ・ジョブズからバトンを受け継ぎ、組織をさらに強固なものにした経験を持っています。だからこそ、生え抜きのベテランが現場に戻り、ブランドの誇りを取り戻そうとする熱量に、かつての自分やアップルの姿を重ね合わせているのかもしれません。
今回の株購入は、ヒル体制に対する「合格通知」であり、ナイキが再び世界を熱狂させるプロダクトを世に送り出す準備が整ったことの証明とも受け取れます。
「ポスト・アップル」を見据えた、ティム・クックの個人的な情熱
ここで少し、私たち自身の視点に戻ってみましょう。もしあなたが、世界一の企業のトップとして頂点を極めたとしたら、その次に何を求めるでしょうか？
巷では「ティム・クックは近いうちにアップルを去るのではないか」という噂が絶えません。彼が自分の資産をナイキに集中させ始めたのは、単なる報酬の一部としてではなく、個人としての「推し活」のようにも見えます。
アップルで「人々の生活を変えるツール」を届けてきた彼が、次に情熱を注ぐ場所が、スポーツを通じて「人間の可能性を広げる」ナイキであるというのは、非常に納得感のあるストーリーです。
彼にとってナイキ株を持つことは、数字の損得を超えた、自身のアイデンティティの一部を預ける行為に近いのかもしれません。この「人間臭い」選択が、皮肉にも冷徹な市場を動かし、株価を5%近く押し上げる結果となりました。
あとがき
今回のティム・クック氏によるナイキ株の大量購入は、単なるビジネスニュースの枠を超えた「信頼の物語」だと感じました。
データやAIが投資の最適解を弾き出す現代において、結局のところ最後に世界を動かすのは「この人がやるなら、もう一度信じてみよう」という人間同士の泥臭い信頼関係なのかもしれません。
ナイキが直面している課題は確かに深刻です。しかし、世界最高の経営者が「自腹を切ってまで賭けたい」と思えるほどのポテンシャルが、今のナイキにはまだ眠っている。
そう考えると、私たちが抱いていた「ブランドの衰退」という不安も、少しだけ和らぐ気がしませんか？
次にあなたがナイキのシューズを履くとき、そのロゴの向こう側に、不敵に微笑みながら未来を確信しているティム・クックの姿を想像してみるのも面白いかもしれません。
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