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マーク・ザッカーバーグが、またしても常軌を逸した賭けに出た。メタ・プラットフォームズが発表した2026年の設備投資見通しは最大1350億ドル。日本円にして約20兆円規模だ。
単なる「増額」ではない。売上高の半分以上をAIインフラに注ぎ込むこの異常事態こそ、彼が抱く強烈な危機感と、生存本能の裏返しである。
数字の規模が桁違いだ。2025年の投資額も720億ドルと巨額だったが、26年はそこからさらに倍増に近い水準へ引き上げられる。
この1350億ドルという金額は、メタの来年の予想総売上高の最大57%に相当する可能性がある。
稼いだ金の半分以上を、次の技術トレンドへ即座に溶かしていくスタイル。一般的な上場企業の経営感覚では到底説明がつかない。
ザッカーバーグのキャリアを振り返れば、この「全突っ込み」は驚くことではない。2012年、PCからモバイルへの劇的なシフトを成功させた成功体験。インスタグラムやワッツアップを巨額買収し、スナップチャットやTikTokの機能をなりふり構わず模倣して覇権を維持してきた執念。彼が「これだ」と信じた時の瞬発力は、テック業界でも群を抜いている。

しかし、投資家や市場の脳裏には、どうしてもあの「失敗」がよぎる。メタバースだ。社名をフェイスブックから変更し、仮想空間に数百億ドルを投じたものの、現状では収益の柱には程遠い。あの時の悪夢が、今回のAI投資に対する評価を複雑にしている。稼ぎ頭の広告事業で得た潤沢なキャッシュを、不確実な未来へ流し込む構図が全く同じだからだ。
ただ、今回はメタバースの時とは決定的に違う点がある。孤独な戦いではないということだ。グーグル、マイクロソフト、OpenAIといった巨人がこぞってAIに巨額投資を行っている。「数の論理」が働き、方向性そのものは間違っていないという安心感はある。だが、それは同時に「他社との差別化ができなければ死ぬ」という、メタバース以上の過酷な消耗戦を意味する。
他社はメタバースという「重荷」を背負っていない分、身軽だ。対するメタは、過去の負債を抱えながら、AIという新たな戦場で勝たねばならない。ザッカーバーグの切迫感は、他のCEOとは比較にならないほど強い。
その重圧は、彼の言動にも表れ始めている。これほど強気な投資計画をぶち上げながら、肝心の新AIモデルについては言葉少なだ。「急速な進化の軌道に乗っている」と繰り返す慎重さは、以前の彼には見られなかったもの。
未完成なプロダクトでも市場に出して反応を見る「ハッカーウェイ」の精神よりも、失敗が許されないという緊張感が勝っている証左だろう。
20兆円という投資は、一企業の設備投資としては正気の沙汰ではない。だが、この狂気じみた賭けこそが、メタを今の地位に押し上げた原動力でもある。
AIが次の「モバイル」になるのか、それとも第二の「メタバース」として巨額の損失を生むのか。答えが出るのは数年先だが、ザッカーバーグは既に賽を投げた。あとは、その目が吉と出るか凶と出るか、市場が固唾を飲んで見守るほかない。
Source:Bloomberg

