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2026年1月、米国のソーシャルメディア勢力図が一変する事態が起きた。絶対王者TikTokが新体制への移行に伴う混乱で自滅し、その受け皿としてオーストラリア発のアプリ「UpScrolled」が爆発的な急成長を遂げている。
App StoreのランキングでThreadsやWhatsAppをごぼう抜きにし、首位を独走するこの新興勢力。なぜ今、人々はこのアプリに熱狂するのか。その背景には、プラットフォームの「透明性」を求めるユーザーの切実な渇望がある。
事の発端は、TikTok米国事業の構造改革だ。セキュリティ懸念を払拭するために設立された合弁会社「TikTok USDS」への移行直後から、アプリは機能不全に陥った。オラクルやシルバーレイクが出資し、ByteDanceの影響力を弱めたはずの新体制は、バグの多発やサービスの中断、そして何より「過剰な検閲」という最悪のユーザー体験を招いた。政府との癒着さえ疑われる不可解なモデレーションに対し、ユーザーの不満は限界点に達した。

そこに現れたのがUpScrolledだ。パレスチナ系オーストラリア人のエンジニア、イッサム・ヒジャジ氏が開発したこのアプリは、TikTokが失ったものをすべて持っていた。「検閲なし、シャドウバンなし、オープンアルゴリズム」。この強烈なスローガンは、恣意的な情報操作に疲れ果てたユーザーの心に深く刺さった。
ヒジャジ氏はIBMやオラクルでの勤務経験を持つ技術者だが、開発の動機は個人的かつ感情的なものだ。ガザ紛争での親族の死と、それに関する情報が大手プラットフォームで抑制されたことへの反発。これが、アルゴリズムによる操作を排した「時系列フィード」や「表現の自由」を徹底する設計思想に繋がっている。
機能面ではTikTokのショート動画、Instagramのストーリー、Xのテキスト投稿をごちゃ混ぜにしたような構成だが、洗練されているとは言い難い。レコメンド機能は弱く、自分から情報を探しに行かなければならない。
それでも、わずか数日でユーザー数は40万人から100万人を突破。サーバーが悲鳴を上げるほどのアクセス集中は、今のユーザーがいかに「管理された快適さ」よりも「不便でも自由な場所」を求めているかを物語る。
もちろん、数億人を抱えるTikTokに比べれば、UpScrolledの規模はまだ誤差の範囲だ。アプリの動作も重く、発展途上感は否めない。しかし、盤石と思われたTikTok帝国が、運営方針のミス一つでこれほど脆く揺らぐという事実は、シリコンバレーに大きな衝撃を与えた。
ユーザーはもはや、プラットフォームに飼い慣らされることを拒否し始めている。UpScrolledが一過性のブームで終わるか、新たな覇権を握るかは未知数だが、ビッグテックのブラックボックス化したアルゴリズムに対する「No」が突きつけられたことだけは間違いない。

