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イーロン・マスクが「電話」という概念に引導を渡そうとしている。スペースXが開発中と噂される独自のモバイルデバイスは、我々が使い古したスマートフォンの延長線上には存在しない。xAIの買収を経て、衛星通信とAIの完全な垂直統合を成し遂げた彼が狙うのは、既存のモバイル市場を根底から覆す、全く新しい計算機プラットフォームの構築だ。
ロイター通信などが報じた「スターリンク端末」の噂に対し、マスク氏は「スマホを開発しているわけではない」と即座に火消しに走った。だが、その言葉の裏にはハードウェアそのものの否定ではなく、既存の電話という枠組みへの明確な決別が透けて見える。彼が構想するのは、AIモデル「Grok」をローカル環境で爆速動作させることに特化した、ニューラルネットワーク最適化端末だ。
現在のスマホは、ガラスと金属の板にアプリを詰め込んだ汎用機に過ぎず、その進化はすでに限界に近い。対してマスク氏が目指すのは、ワットあたりのAI処理能力を極限まで高め、スターリンクの衛星網とダイレクトに結ばれた、いわば「自律型AIノード」としてのハードウェアだ。
地上基地局の有無に左右されず、エベレストの山頂から砂漠の真ん中まで、地球上のあらゆる場所で高度なAIとリアルタイムにリンクする。これは、都市部のトラフィックに依存するアップルやグーグルのインフラ戦略に対する、宇宙からの宣戦布告に他ならない。
直近のスペースXによる1.25兆ドル規模のxAI買収は、このパズルの最後の一片を埋めるものだった。ロケット、衛星網、AI、そしてX(旧Twitter)が持つ膨大なリアルタイムデータ。これらを一つのデバイスに集約することで、これまでの「AI Pin」のような中途半端なガジェットが陥った、通信遅延と処理能力不足という罠を力技で回避しようとしている。
ハードと通信、そして知能のすべてを自前で握る垂直統合の破壊力は、かつてのiPhoneがノキアを市場から駆逐した時以上のパラダイムシフトを予感させる。
スマートフォンの進化が頭打ちになり、ユーザーが「次の何か」を渇望している今、マスク氏の試みは無謀な野心ではなく、モバイルの必然の帰結だ。
通信の主権を空へ移し、知能をポケットの中のチップへ閉じ込める。この「非・スマホ」端末がベールを脱ぐ時、私たちはようやく、長らく停滞していたモバイルの呪縛から解放されることになる。
Source:Reuters

