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ストリーミングが音楽市場の覇権を完全に掌握した2026年において、「iTunes」はいまだに死んでいない。
それどころか、Apple MusicやSpotifyといったサブスクリプションサービスの隙間を埋める、極めて重要な収益源として機能し続けている。ダウンロード販売はオワコンだという一般的な認識は、Appleが持つ内部データの前では完全に否定される。
なぜAppleは今なお、この「レガシー」なプラットフォームに固執し、レコードレーベルへ積極的な活用を促しているのか。その理由は、ストリーミングには決して手が届かない「巨大な空白地帯」が存在するからだ。
ブルームバーグが発行するニュースレター「Soundbite」が報じた内容は、業界関係者に少なからず衝撃を与えた。Appleは現在、大手レコードレーベルに対し、Apple Musicの会員獲得だけでなく、iTunesユーザー層を最優先のターゲットにするよう強く働きかけているという。クパティーノの巨人がここまで露骨にダウンロード販売を推す背景には、驚くべき数字がある。
iTunesを利用するユーザーの8割以上が、Apple Musicに加入していない。
つまり、アルバムのリリース週において、iTunesユーザーはストリーミング層とは全く被らない「完全な新規顧客」として存在する。彼らはサブスクリプションの定額制を嫌い、あるいは必要とせず、都度課金で楽曲を手に入れることを選んでいる層だ。競合他社のサービスを利用している可能性はあるものの、Appleのエコシステム内においては、サブスクリプションの網から漏れた貴重な「未開拓地」と言える。
さらに興味深いのは、このユーザー層が決して「昔ながらの高齢者」だけではないという点だ。現在のiTunes顧客の半数は、Apple Musicが開始された2015年以降に楽曲購入を始めている。
サブスクリプション全盛の時代に、あえてダウンロードを選んで参入してきた層が半数を占める事実は重い。
購入されている楽曲の中身も、懐メロばかりではない。四半期ごとのベストセラーアルバム上位1万枚のうち、約50%は最近リリースされた新譜が占める。人々は昔を懐かしんでiTunesを開くのではなく、最新のヒットチャートを追いかけ、それを「所有」するために金を払っている。
ここには、サブスクリプション特有の「不安定さ」に対する反動も見て取れる。権利関係のトラブルや契約終了によって、ある日突然プレイリストから曲が消えるリスクは常にある。ネット環境に依存せず、一度買えば永久に手元に残るデジタル所有権への需要は、クラウド時代だからこそ、むしろ明確な価値として再評価されている。

Appleの戦略は極めて合理的だ。Apple Musicでサブスクリプション収益を確保しつつ、そこには入ってこない層をiTunesで確実に刈り取る。
この二本柱の戦略は、互いにカニバリゼーション(共食い)を起こすことなく、収益を最大化させている。多くのアーティストがiTunesでの限定販売やバンドル販売を行うのも、単なるファンサービスではなく、そこに確実な実利があるからに他ならない。
ストリーミングがどれほど普及しようとも、「所有欲」という人間の根源的な欲求は消えない。iTunesはもはや過去の遺産ではなく、サブスクリプションと共存し、補完し合うための必須ツールとして、2026年の音楽ビジネスを支えている。

