世界中のゲーマーが固唾をのんで見守っていた、PlayStation 5の価格問題。2025年初頭に米国が発動した対中関税により、多くのファンが「PS5の値上げは避けられないのではないか」という不安を抱いていました。
しかし、この度ソニーが下した一つの経営判断により、その懸念はひとまず払拭されることになりそうです。
ソニーは、米国の関税リスクを回避するため、PS5の生産拠点を中国国外へ移転したことを公式に認めました。これは、短期的な価格安定に繋がる朗報と言えるでしょう。しかし、この一手だけで「PS5の価格は未来永劫安泰だ」と結論づけるのは早計です。
この記事では、ソニーの戦略的な生産拠点移転の真相を深掘りするとともに、それが日本のPS5価格に与える影響、そして価格問題以上に我々が注視すべき、同社のビジネスモデルの大きな転換について、多角的に分析・考察していきます。
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トランプ関税問題とPlayStation 5の価格問題の情報まとめ
Sony CFO Lin Tao says they have already moved production of PS5 consoles sold in the US to outside of China to combat US tariffs! #PlayStation
— Genki✨ (@Genki_JPN) August 9, 2025
They also plan to move production of peripherals sold in the US to outside China by the end of September 2025!
"So about gaming… pic.twitter.com/kxViiDpmLl
米国の関税リスクを回避した、ソニーの「戦略的移転」
今回の価格安定化の鍵となったのは、ソニーによる迅速かつ戦略的な意思決定でした。同社の最高財務責任者(CFO)であるリン・タオ氏は、決算報告の場で、PS5の価格上昇懸念を和らげる重要な事実を明かしました。
「コンソールに関しては、すでに生産移管を完了しています。(中略)米国で販売されているハードウェアは現在、中国国外で調達されています」
この発言が意味するのは、米国の対中追加関税の直接的な影響を、PS5本体が受けない体制をすでに構築済みである、ということです。さらに、コントローラーなどの周辺機器についても、2025年度上期末までに中国国外への移管を完了する予定だとしています。
これは、地政学リスクを的確に読み、サプライチェーンを再構築するという、現代のグローバル企業に求められる巧みな経営判断と言えるでしょう。これにより、少なくとも米国市場における関税を理由とした値上げの可能性は、極めて低くなりました。

【考察】では、日本のPS5価格はどうなるのか?
さて、ゲーマーにとって最も重要なのは「日本の価格はどうなるのか?」という点です。今回のソニーの動きから、日本の販売価格への影響を考察してみましょう。
結論から言えば、短期的に日本のPS5価格が大きく変動する可能性は低いと考えられます。 今回の生産拠点移転は、あくまで米国の関税政策への対策が主目的です。日本市場は直接の対象ではないため、この動きが直ちに値下げや値上げに繋がるわけではありません。むしろ、生産移管に伴う一時的なコスト増を、好調なゲーム事業の利益で吸収し、グローバルでの価格安定を維持する狙いがあるのでしょう。
しかし、中長期的な視点で見ると、楽観はできません。 いくつかの懸念材料が存在します。
第一に、継続する円安です。海外で生産され、多くの輸入部品を使用するPS5にとって、円安は製造・調達コストの上昇に直結します。現在の為替水準が続けば、いずれ価格への転嫁が検討される可能性は常に残ります。
第二に、任天堂の先行事例です。任天堂も同様に「Switch 2」の生産をベトナムに移管しましたが、その後、本体および付属品の価格を引き上げました。生産拠点移転が、必ずしも恒久的な価格安定を保証するものではないことを、この事例は示唆しています。
そして第三に、ソニー自身が将来的な値上げの可能性を否定していないという事実です。「経済状況の変化」を理由に挙げており、これは世界的なインフレや景気動向次第で、価格改定も辞さないという姿勢の表れです。

価格以上に注視すべき、ソニーの「ビジネスモデル転換」
実は、短期的な価格変動以上に我々が注目すべきは、ソニーが示唆するビジネスモデルの大きな転換です。
ソニーの上級副社長、早川貞彦氏は、同社が「ハードウェア中心のビジネス」から脱却すると明言しています。これは、ゲーム機本体の販売で利益を上げるのではなく、PlayStation Network(PSN)を通じたソフトウェア販売やサブスクリプションサービスで収益を確保する方向へ、より舵を切ることを意味します。
この方針は、昨今噂される「PlayStation専用タイトルの減少」とも符合します。ファーストパーティタイトルをPCなど他のプラットフォームへも展開し、収益機会を最大化する戦略です。
これが進めば、ゲーマーにとっては「PS5でしか遊べない魅力的なゲーム」が減ることを意味し、ゲーム機を選ぶ際の判断基準も変わってくるでしょう。ハードの価格もさることながら、そのプラットフォームが提供する「体験価値」そのものが、より厳しく問われる時代になるのです。

まとめ
ソニーによるPS5生産拠点の中国国外への移転は、米国の関税という直接的な脅威を回避し、短期的な価格の安定をもたらす見事な一手でした。この朗報に、胸をなでおろしたゲーマーも多いことでしょう。
しかし、その背景を深く読み解くと、我々は単純な価格問題に一喜一憂している場合ではないのかもしれません。継続する円安や世界経済の不確実性といった外部要因に加え、ソニー自身の「ハードウェア中心からの脱却」という大きなビジネス戦略の転換が、PlayStationプラットフォームの未来を左右しようとしています。
