「もうスマホの小さな画面で映画を見るのは限界かもしれない」。ふとそんなことを思ったことはありませんか?私たちは毎日、手のひらサイズの板ガラスを何時間も見つめ続けていますが、そろそろ視覚体験のパラダイムシフトが起きてもいい頃です。
そんな期待に応えるかのように、日本市場に投入されたのが新型ARグラス「Xreal 1S」です。「S」がついただけのマイナーチェンジ版だと思ってスルーしようとしたあなた、少し待ってください。
このデバイス、ただスペックが上がっただけではありません。Xreal Oneの後継として登場したこのモデルは、私たちがコンテンツをどう「消費」するかという根本的な部分に、ある種の魔法をかけようとしています。
今回は、67,980円という価格が私たちのQOL(生活の質)に見合う投資なのか、そして話題の「リアルタイム3D変換」がどれほどの衝撃をもたらすのか。公開された情報を元に、メーカーの謳い文句を一歩引いた視点で冷静に、かつ情熱的に分析していきます。
Source:Xreal JP
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わずか2度の違いが世界を変える?視野角と輝度の進化
まず、カタログスペックを見て多くの人が「あれ?」と思うのが視野角でしょう。旧モデル(S非搭載のOne)が50度だったのに対し、今回のXreal 1Sは52度。たった2度の違いです。数字だけ見れば誤差の範囲に思えるかもしれません。
しかし、ARグラスにおける「2度」は、映画館で座席が数列前になる感覚に似ています。このわずかな拡大が、没入感という名の脳の錯覚をより強固なものにします。さらに重要なのは輝度の向上です。600ニットから700ニットへのアップグレードは、薄暗い部屋だけでなく、日中のリビングのような明るい環境でも、映像が「透けて見えにくくなる」ことを意味します。
解像度は1200p、リフレッシュレートは120Hzと、ゲーミングモニター並みの滑らかさを維持しており、sRGBカバー率108%の色域は、アニメや映画の色を製作者の意図通りに再現してくれるでしょう。

「2Dが勝手に3Dになる」という魔法
今回の最大の目玉機能、それが「リアルタイム3D変換」です。内蔵されたX1 SoC(System on a Chip)が、ただの2D映像をリアルタイムで分析し、3D映像へと変換してくれます。
これは、私たちが持っている過去の映画ライブラリや、YouTubeの普段の動画が、すべて新しい体験に生まれ変わることを意味します。「3D映画なんて最近少ないし」という言い訳はもう通用しません。
この機能は、コンテンツ不足というAR/VRデバイス特有の課題に対する、Xrealなりの「力技かつスマートな解決策」と言えるでしょう。フレーム生成技術や3msという低遅延も相まって、映像の遅れに酔うことも少なそうです。

重量はわずか82g!「着け続けられる」ことの価値
どんなに映像がすごくても、重くて痛いメガネは誰もかけません。Xreal 1Sは82グラムという軽量設計を実現しました。Xreal Oneよりも軽くなっている点は見逃せません。
フレキシブルなテンプルと調整可能なヒンジは、顔の形を選ばずフィットするよう設計されています。「ウェアラブル」デバイスにおいて、装着感の向上はスペック向上よりも重要かもしれません。
長時間映画を見ても、鼻や耳が悲鳴を上げない。この当たり前の快適さこそが、ガジェットを「おもちゃ」から「日常の道具」へと昇華させるのです。

Boseチューニングのサウンドは「映画館」を持ち運べるか
オーディオ面でのトピックは、音響機器の名門Boseとのコラボレーションです。「Spatial Sound 4.0」とダイナミックオーディオアルゴリズムの組み合わせにより、音が空間に広がるような体験が可能とのこと。
ただし、ここで一つ冷静になる必要があります。構造上、これはオープンイヤー型です。インイヤー型のノイズキャンセリングイヤホンのように、周囲の騒音を完全に遮断するわけではありません。「ENCアップリンクノイズキャンセリング」は搭載されていますが、これは主に通話用や特定の周波数帯の制御でしょう。
満員電車の中で静寂を手に入れるためのものではなく、静かな部屋でリラックスして音に包まれるための設計だと理解しておくのが正解です。それでも、Boseの名前を冠する以上、低音の響きやセリフの明瞭度には大いに期待して良いはずです。

まとめ
Xreal 1Sの登場を見て感じるのは、ARグラスというジャンルが「ギークな実験場」から「実用的なエンタメ機器」へと脱皮しつつあるという変化です。
価格は67,980円。安くはありませんが、例えば60インチの高品質テレビとサラウンドシステムを部屋に置くコストとスペースを考えれば、むしろ「コスパが良い」という見方もできます。特に、手持ちの2Dコンテンツを3D化して楽しめる機能は、既存の資産を再利用できる点で非常に魅力的です。
私たちはこれまで、新しい体験をするために新しいコンテンツを買わなければなりませんでした。しかしXreal 1Sは「見方を変える」ことで、手持ちのコンテンツを新品同様に蘇らせてくれるかもしれません。
もしあなたが、日々の動画視聴にマンネリを感じていて、生活にちょっとした未来を取り入れたいなら、この新しいサングラスは最高への招待状になるでしょう。まもなく始まる世界展開を前に、日本でいち早くこの体験に触れられるのは、実はとても幸運なことなのかもしれません。

