ついに、この時が来ました。AppleがVR/AR市場に「Vision Pro」という強烈な一撃を放ってから数日、長らく「Project Moohan」として噂されてきたサムスンの対抗馬が、「Galaxy XR」としてその姿を現しました。
XR(エクステンデッド・リアリティ)界隈が、一気に熱を帯びてきています。
Appleの独走を許すまいと、サムスンがGoogle、Qualcommと強力なタッグを組んで送り出すこの新デバイス。「Android XR」という新たなOSを搭載し、AI「Gemini」とも統合されるというのですから、期待しない方が無理というもの。
果たしてGalaxy XRは、Vision Proが築こうとしている牙城を崩すことができるのか。その気になるスペックと、秘められた可能性を探っていきましょう。
記事の内容を音声で聞きたい方はこちら↓

※なんか知らないけど、512GBが一番安くなってるのなんでですかね…

AI体験が核。Google・Qualcommとの「三位一体」

Galaxy XRの最大の注目点は、単なるハイスペックな「箱」ではない、という点に尽きます。OSにはGoogleがXR向けに最適化した「Android XR」を採用し、あのAI「Gemini」がシステムレベルで深く統合されています。
サムスンは「AIを体験の中心に据える」と宣言しており、これが具体的にどのようなユーザー体験(UX)を生み出すのか。検索、翻訳、空間認識といったあらゆる場面で、AIが我々をどうサポートしてくれるのかが、Appleのエコシステムと差別化する最大のポイントになりそうです。
心臓部であるSoC(CPU)には、Qualcommの「Snapdragon XR2+ Gen 2」を搭載。これは2024年1月に発表されたチップであり、Appleが最新の「M5」チップ(※記事原文の表記に準拠)を積んできたことと比較すると、正直なところ「最新鋭」とは言い難いかもしれません。
メモリは16GB、ストレージは256GB。現時点では十分な容量ですが、残念ながら後からのアップグレードはできない仕様となっています。
圧巻の「4KマイクロOLED」と広い視野角

とはいえ、XRデバイスの「命」は、なんといっても映像体験の質です。
Galaxy XRは、3,552 x 3,840ピクセルという高解像度のマイクロOLEDパネルを搭載しています。これは実質「4K」クラスであり、スクリーンドア効果(網目感)の少ない、極めてクリアな視界が期待できます。
視野角も水平109度、垂直100度と広く確保されており、リフレッシュレートは最大90Hz。映画鑑賞や高精細なMR(複合現実)コンテンツを体験する上で、十分すぎるほどのスペックと言えるでしょう。
現実を取り込むセンサー群と「虹彩認証」


Apple Vision Proが世界を驚かせた理由の一つが、現実世界を違和感なく映し出す高品質な「パススルー」機能でした。
Galaxy XRも、この点には一切の妥協がありません。パススルー用のカメラ2台、トラッキング(位置追跡)用のカメラ6台、視線追跡用のカメラ4台、さらに慣性測定ユニット5台、深度センサー1台、フリッカーセンサー1台と、まさに「センサーの塊」です。
これらのセンサー群が、現実空間とデジタル情報をどれだけシームレスに融合させてくれるのか。ここが勝負の分かれ目です。 また、6.5MPカメラによる3Dの静止画・動画撮影も可能。生体認証には、別途搭載された「虹彩センサー」を使用するというのも、近未来感を高めてくれます。
気になる「重さ」と「バッテリー」、そして「発売地域」

こうした高機能デバイスで常に課題となるのが、装着感とバッテリーです。
Galaxy XRの本体重量は、額当てクッション込みで545グラム。Vision Pro(モデルによりますが600g超)と比較すると、やや軽量に仕上がっています。しかし、油断はできません。予備バッテリーを装着すると、さらに303グラムが追加されます。
そのバッテリーの持続時間ですが、公称値では最大2.5時間(インターネット経由の2Dコンテンツ視聴時)とされています。これはVision Proとほぼ同等か、若干長い程度。当然、負荷の高いMRアプリなどを使用すれば、実際の駆動時間はさらに短くなることが予想されます。
そして、我々日本のユーザーにとって最も残念なお知らせが「発売地域」です。現時点での販売は、米国と韓国のみ。日本を含むグローバル展開については「未定」となっており、続報を待つしかありません。
Galaxy XR スペック一覧
カテゴリ | 詳細 |
メモリ | 16 GB |
ストレージ | 256 GB |
画面解像度 | 3,552 x 3,840 |
画面画素数 | 2,700 万画素 |
画面タイプ | マイクロ OLED |
ピクセルピッチ | 6.3 ミクロン |
色域 | DCI-P3 の 95% |
リフレッシュレート | 60 Hz、72 Hz (デフォルト)、90 Hz (サービス要求に応じて最大) |
視野角 (水平/垂直) | 水平 109 度、垂直 100 度 |
チップ | Snapdragon® XR2+ Gen 2 プラットフォーム |
カメラ | 3D写真とビデオキャプチャをサポート、18mm / F2.0、6.5MP* |
センサー | 高解像度パススルーカメラ2台、ワールドフェイシングトラッキングカメラ6台、視線追跡カメラ4台、慣性計測ユニット(IMU)5台、深度センサー1台、フリッカーセンサー1台 |
視覚(虹彩) | 虹彩認識をサポート(デバイスロック解除、特定アプリでのパスワード入力) |
オーディオ | 2ウェイスピーカー(ウーファー+ツイーター)、6つのマイクアレイ(ビームフォーミング機能サポートあり) |
オーディオ再生コーデック | MP3、AMR-NB/WB、AAC/AAC+/eAAC+、Vorbis、FLAC、Opus、Dolby Digital(AC3)、Dolby Digital Plus(E-AC3)、Dolby ATMOS(E-AC3 JOC、AC4) |
ビデオ再生解像度 | UHD 8K (7680 x 4320) @ 60fps |
ビデオ再生サポート | HDR10 および HLG をサポート |
ビデオ再生コーデック | H.263、H.264、HEVC、MV-HEVC、MPEG-4、VC-1、VP8、VP9、AV1 |
バッテリー駆動時間 | 通常使用で最大 2時間*、動画視聴で最大 2.5時間**(充電しながら使用可能) |
接続性 | Wi-Fi 7 (802.11a/b/g/n/ac/ax/be)、BT 5.4 (最大) |
瞳孔間距離 (IPD) | 54 〜 70 mm |
視力矯正 | 別売りの光学インサートによる視力矯正をサポート(処方レンズは別売り) |
重さ (本体) | 約 545 g*(額当てクッション装着時。ライトシールド装着の有無により異なる) |
重さ (別売バッテリー) | 302 g |
*カメラの解像度、バッテリー駆動時間、製品重量については、使用状況や環境により異なる場合があります。
Appleへの「本気の回答」。だが勝負は「体験」と「価格」に
ついに全貌を現した「Galaxy XR」。スペックシートを眺める限り、Apple Vision Proに真っ向から勝負を挑む、まさに「ライバル」と呼ぶにふさわしいデバイスであることは間違いありません。
特に、GoogleのAI「Gemini」と「Android XR」という強力なソフトウェアが、どのような「キラーコンテンツ」を生み出すのか。ここが最大の焦点です。
一方で、SoCが最新世代ではない点や、実使用でのバッテリーの持ちなど、いくつかの懸念材料も残ります。
そして何より、この記事が書かれている時点では「価格」が発表されていません。Vision Proがその性能と引き換えに非常に高価であっただけに、Galaxy XRがどれだけ「現実的な」価格を提示し、どれだけ魅力的な「体験」を提供できるか。