「いいところでコントローラーの充電が切れた」 PS5ユーザーなら誰もが一度は経験する、あの絶望的な瞬間。没入感を売りにしているはずの体験が、バッテリー警告のポップアップ一つで現実に引き戻されるのは、なんとも皮肉な話です。
しかし、そんな悩みが過去のものになるかもしれない、興味深いニュースがヨーロッパから飛び込んできました。実は、新しく発売されたPS5 Proや一部のPS5 Slimに同梱されているコントローラーが、こっそりと「新型」に置き換わっているというのです。
公式からの大々的なアナウンスはなく、いわゆる「サイレント修正」として投入されたこの新型DualSense。型番「CFI-ZCT2W」と呼ばれるこのデバイスは、単なるマイナーチェンジではありません。私たちの最大の不満点であるバッテリー持ちを改善するために、ある機能を「削除」するという、思い切った決断がなされていました。
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欧州で発見された「CFI-ZCT2W」とは何か
事の発端は、ヨーロッパの鋭いゲーマーたちによる報告でした。 彼らが手にした最新のPS5 Pro(モデル番号:CFI-7121)や、新しい出荷分のPS5 Slim(モデル番号:CFI-2116)に同梱されていたコントローラーの背面に、見慣れない型番が刻印されていたのです。
その名は「CFI-ZCT2W」。 従来のDualSenseと外見上の違いはほとんどありません。しかし、中身は別物でした。
「Modyfikator89」という名のハードウェア改造者が分解調査を行ったところ、内部のメイン基板が「BDM-060」という新しいバージョンに更新されていることが判明しました。通常、基板の更新はコスト削減や部品の共通化のために行われますが、今回は明らかに「効率化」に焦点が当てられています。
この基板の変更により、消費電力が最適化され、これまでよりも長いバッテリー駆動時間が期待できるといいます。これは、長時間のプレイで充電ケーブルに縛られ続けてきたゲーマーにとっては朗報以外の何物でもありません。
さらに、今後発売される「Ghost of Yōtei(ゴースト・オブ・ヨウテイ)」のリミテッドエディションなど、特別デザインのコントローラーもこの新仕様になると見られています。

バッテリー寿命延長の代償は「サブマイク」
しかし、話はここで終わりません。 「何かを得るには、何かを捨てなければならない」。この等価交換の法則は、ガジェットの世界でも有効でした。
分解調査によって明らかになった衝撃の事実は、新型コントローラーから「セカンダリマイク(サブマイク)」が物理的に削除されているという点です。 DualSenseにはこれまで、ボイスチャット用のメインマイクに加え、周囲の雑音を拾ってノイズキャンセリングを行うためのサブマイクが搭載されていました。新型ではこのサブマイクを取り除くことで、電力消費を抑える設計に変更されたようなのです。
ここで一つの疑問が浮かびます。「ノイズキャンセリング性能は落ちないのか?」という点です。 確かにスペック上は機能ダウンに見えます。
しかし、多くのコアゲーマーはヘッドセットを使用しており、コントローラー内蔵マイクをメインで使う頻度はそう高くありません。ソニーは、「あまり使われない機能を維持してバッテリーを食うより、削ってでも寿命を延ばした方がユーザー体験は向上する」と判断したのでしょう。
これは機能の「劣化」ではなく、実用性を重視した「断捨離」と言えるかもしれません。

スティックドリフト問題と本体の冷却システム
バッテリー問題への対策が見えた一方で、依然として残る懸念もあります。 多くのユーザーが悩まされている「スティックドリフト(勝手に視点が動く現象)」についてです。残念ながら、今回の新型コントローラーにおいても、磁気センサーを用いた「ホール効果スティック」や「TMRスティック」が採用されたという確証は得られていません。耐久性に関しては、従来モデルと変わらない可能性があります。
一方で、コントローラーだけでなく、PS5 Slim本体(CFI-2116)側にも興味深い変更が確認されています。 なんと、PS5 Proで採用された冷却設計の一部が、Slimモデルにも流用されているというのです。これにより、初期モデルで一部懸念されていた液体金属の漏れリスクや、排熱効率の問題が改善されていると予測されます。
「Pro」の技術が、普及モデルである「Slim」にひっそりと降りてきている。これぞまさに、製造ラインの成熟が生んだ恩恵と言えるでしょう。

