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販売台数が1740万台を突破し、順風満帆に見える「Switch 2」だが、水面下では深刻な収益構造の危機が進行している。ハードウェアが売れれば売れるほど、任天堂の懐が痛むというパラドックスだ。
メモリ価格の高騰により、2026年末までに本体1台あたり最大50ドル(約7500円)の「逆ザヤ」が発生する可能性が浮上した。この事実は単なる財務の問題にとどまらず、私たち消費者が手にする端末価格そのものを揺るがしかねない。事の発端は、UBS証券(元記事のUSBは誤植と推測される)による衝撃的なレポートだ。
Switch 2に搭載されているDDR5メモリなどの部材コストが、現在の46ドルから120ドルへと3倍近く跳ね上がる予測が出ている。
現状、1台あたり23ドル(約3400円)確保できている粗利益は、このコスト増が現実となれば一気に吹き飛び、逆に35ドルから50ドルの損失へと転落する。
ハードウェアビジネスにおいて「逆ザヤ」自体は珍しいものではない。かつてのPS3や初期のPS4も、普及期には赤字で販売し、ソフトのロイヤリティで回収するモデルを採用していた。
しかし、任天堂は伝統的に「ハード単体でも利益を出す」健全経営を是としてきた企業だ。この原則が崩れようとしている今、古川社長の「現時点での値上げは予定していない」という発言は、経営的な余裕の表れか、あるいは普及を止めないための苦渋の決断か、慎重に読み解く必要がある。
古川社長は一時的な赤字を許容する姿勢を見せているが、これは2025年度の純利益が前年比51.3%増という強力な財務基盤があってこそだ。SKハイニックスなどのサプライヤーとの長期契約が防波堤になるとの見方もあるが、メモリ市場の逼迫が2028年まで続くという予測もあり、予断を許さない。

ここで最も気になるのが、日本国内での販売価格への影響だ。
海外ではインフレに合わせた価格転嫁が比較的受け入れられやすいが、日本市場は特殊だ。任天堂はこれまで、一度設定したハードウェア価格を為替やコスト増を理由に値上げすることを極端に嫌ってきた。
ソニーがPS5で踏み切ったような「発売後の数回にわたる値上げ」は、任天堂が掲げる「子供が自分のお小遣いや親へのプレゼントとして買えるおもちゃ」としてのブランド定義を根底から崩してしまうからだ。
私の見立てでは、日本国内においてSwitch 2の「定価」が途中で引き上げられる可能性は極めて低い。たとえ1台売るごとに数千円の赤字が出たとしても、任天堂は国内シェアの維持を最優先するはずだ。ハードの普及さえ止まらなければ、その後に控える3Dマリオやゼルダといった強力な自社IPソフト、そしてNintendo Switch Onlineのサブスクリプション収入で十分にリカバーできる計算が立つ。
ただし、「実質的な値上げ」に近い動きは警戒すべきだ。例えば、コストのかかる現行モデルの出荷を絞り、利益率の高い特別版やバンドル版を主力に据える、あるいは周辺機器の価格改定でバランスを取るといったステルスな対策は十分にあり得る。
結局のところ、任天堂の武器はハードウェアのスペックではなく、そこでしか遊べない体験だ。2月のNintendo Directで発表されるであろうサードパーティタイトル、そして独占タイトルのラインナップが充実している限り、この「逆ザヤ」期間は、将来の圧倒的なプラットフォーム支配に向けた必要な投資として処理されるだろう。我々ユーザーにとっては、値上げの心配をするよりも、次に投入されるキラーソフトの完成度を注視すべき局面にある。
Source:日経新聞

