スマートフォンカメラの進化は、もう「限界」だと感じていませんか?毎年、センサーサイズは少しずつ大きくなり、レンズの出っ張り(カメラバンプ)は分厚くなる一方です。
高性能な写真を撮るために、私たちはスマートフォン本来のスリムさを犠牲にしてきました。いつしか、「スマートフォンの薄さ」と「カメラの性能」は、トレードオフの関係にあるのが当たり前になってしまったのです。
しかし、Xiaomiが昨年3月のMWC 2025で発表したコンセプト「Modular Optical System(MOS)」は、この常識そのものを根底から覆そうとしています。これは、ただの「高性能カメラ」の話ではありません。
これは「スマートフォンとカメラの新しい関係性」を定義し直す、哲学的な試みです。本当に私たちは、プロ仕様の画質とスマートフォンの軽快さを両立できるのでしょうか?今回は、この未来的なコンセプトの全貌と、私たちが受け入れるべき「新しい習慣」について掘り下げていきます。

モバイル写真!MOSのシンプルな仕組み
Xiaomiが提案するMOS(モジュラー光学システム)の原理は、非常にシンプルでありながら画期的です。それは、カメラセンサーとレンズをスマートフォン本体に固定するのをやめ、外付けモジュールとして磁力で接続するという方法です。
まるでミラーレス一眼のレンズ交換のように、ユーザーは必要な時に高性能なモジュールを背面にカチッと装着し、スマートフォンを本格的なカメラへと変身させることができます。装着されたモジュールはスマートフォンと瞬時にリンクし、本体の高度なAIソフトウェア処理の恩恵を受けながら動作します。
この「脱着可能」という単純な構造の転換こそが、長年のスマホカメラの課題を一気に解決する鍵となるのです。

画質はミラーレス級?マイクロフォーサーズとf/1.4の衝撃
発表されたプロトタイプモジュールのスペックを見ると、Xiaomiの本気度がわかります。搭載されているのは、一般的なスマートフォンセンサーを大幅に上回るサイズの1億画素マイクロフォーサーズセンサーです。これに35mm判換算でf/1.4という大口径レンズを組み合わせることで、従来のスマートフォンでは実現が難しかった「自然な被写界深度(ボケ味)」や、暗所での優れた光処理能力を実現します。
これは、専用のカメラを持ち歩く写真愛好家にとって、真に魅力的なニュースです。旅行中や日常のスナップで、重いカメラバッグを必要とせず、スマートフォンの利便性を保ちながら、本格的な「作品」を残せる可能性が開けます。
そして、このモジュールとスマートフォン間の通信には、最大10Gbpsという超高速データ転送が可能な「LaserLink技術」が活用されています。この瞬時の通信速度があるからこそ、外付けであっても内蔵カメラと遜色ないレスポンスを実現できるわけです。

MOSが解決する、スマートフォン写真の二大課題
このモジュラーシステムには、現在のスマートフォンが抱える二つの大きな課題を解決する可能性があります。
1. デザインと機能性の両立
MOSの最大のメリットは、「カメラを使わないときはスマートフォンをスリムに保てる」点です。高性能化に伴い、カメラバンプが巨大化し、テーブルに置いたときにガタつく、ポケットから取り出しにくいといった不満が蔓延しています。MOSなら、モジュールを外せば本体はスリムなまま。日々の汎用性と、特別な日の写真性能を、物理的に分離して両立できるのです。
2. 進化の停滞を防ぐモジュール性
スマートフォンの買い替えサイクルは平均2〜3年ですが、カメラ技術の進化はそれよりも速い場合があります。MOSならば、スマートフォン本体を買い替えなくても、カメラモジュールだけをアップグレードすることが可能になるかもしれません。
例えば、広角モジュール、高倍率ズームモジュールなど、様々な用途に特化したモジュールを付け替えることで、一つのスマートフォンが何役もこなせるようになります。
唯一の課題はユーザーの「慣れ」という壁
しかし、この革新的なプロジェクトが「コンセプト」の域を出るには、いくつかの課題があります。
一つは、価格とエコシステムの限定性です。現時点ではコストが高く、モジュール自体が高価になることが予想されます。そして、Xiaomiが継続的に交換可能なモジュールを複数開発し続けるという保証もまだありません。もしモジュールが一つしか存在しなければ、これはただの「高価な外付けカメラ」で終わってしまいます。
最も重要な課題は、ユーザーの「習慣」です。私たちは、スマートフォンは「いつでも、どこでも、そのまま使える」ことに慣れきっています。追加のモジュールを持ち運び、撮影のたびに装着するという行為は、いくら写真愛好家であっても、億劫に感じる瞬間があるかもしれません。
このMOSの成功は、ユーザーが「より良い写真体験」のために、「ひと手間かける」という新しい習慣を受け入れる意思があるかにかかっています。

