完全ワイヤレスイヤホン(TWS)の世界は、もはや戦国時代。AirPods Pro、ソニーのWF-1000XM5、OnePlus…各社が「最高の音響体験」を謳い、AIだの空間オーディオだのと、我々の耳をあの手この手でハックしようとしてきます。
その仕上げとして、最近のプレミアムイヤホンには決まって「パーソナライズ機能」が搭載されていますよね。
スマホで耳の写真をパシャリ。「あなたの耳の形を解析しました!」 ピーピー音が鳴るクイズに答えて、「あなたの聴力を測定しました!」
…でも、正直に言ってもらっていいですか? 私は、あの機能を使うたびに、心の中でこう呟いていました。 「これ、本当に意味あるの? プラシーボじゃない?」と。
どうやら、そのモヤモヤに「ガチすぎる」答えを用意してくれた日本のブランドがあるようです。緻密な職人技と、時に「変態的」とまで言われるサウンドデザインで知られる、あの「Final Audio」です。
彼らが発表した「Tonalite」は、我々が抱いていた“なんとなくのパーソナライズ”という常識を、根本から破壊する可能性を秘めています。

なぜFinalは「耳」だけでなく「頭」までスキャンするのか
今回発表されたFinalの最新フラッグシップ「Tonalite」。 このイヤホンがやろうとしていることは、既存の競合製品とはレベルが違います。
AirPodsやXM5の「写真」と何が決定的に違うのかという点。まずは、現状のパーソナライズ技術の“限界”を知る必要があります。
AppleのAirPods Pro(第3世代)やソニーのWF-1000XM5、OnePlus Buds 4などが採用している技術。これらは、耳の「写真」や「聴力クイズ」に依存しています。
しかし、Finalに言わせれば、それは「おおよそ」の耳の形状や「一般的」な聴力データに過ぎない、と。 確かに、平面の写真一枚で、複雑な耳の凹凸や、音が実際にどう反響しているかなんて、完璧にわかるはずがありません。

Tonaliteの「ガチ」すぎるデュアルスキャン
そこでFinalが持ち出したのが、「Focal」独自のDTAS (デジタル ツイン オーディオ シミュレーション) というエンジンです。 Tonaliteは、このエンジンのために、常軌を逸した二段階の測定を行います。
1. 頭部と耳の「3次元スキャン」
耳の写真? 甘い。Tonaliteが要求するのは、あなたの「頭部全体」の3Dスキャンです。 付属の「ステッカー付きヘッドバンド」を装着し、スマートフォンでマルチアングルから撮影。アルゴリズムがあなたの頭の形状と、耳の“正確な”位置関係を測定します。
なぜ頭の形まで? Finalの主張はこうです。「音は耳だけで聞いているのではない。音が頭の周りを回って耳に伝わる、そのプロセス全体をモデル化する必要がある」と。ライブリスニング体験の模倣。もはや執念です。
2. 外耳道の「音響実測」
頭の形を把握したら、次は「耳の穴」です。 イヤホンに内蔵されたマイクを使い、実際にあなたの外耳道が「どの周波数をどう拾うか」をサンプリングします。これはクイズではありません。物理的な「実測」です。




あなただけの「デジタルツイン」が誕生する
この二つの“ガチ測定”の結果、生成されるのが、あなただけの「デジタルツイン」プロファイル。
これは、単に高音を強調したり、低音をブーストしたりするのとはワケが違います。 人によって微妙に異なる「スペクトルの不均衡」――つまり、あなた固有の頭の形や耳の穴の形状によって生じる「音のクセ」を、ピンポイントで補正するのです。
「自分にしか聞こえない、真にオーダーメイドの音」。 多くのメーカーが夢物語のように語ってきたその言葉を、Finalは3Dスキャンと実測という、最も愚直で、最も誠実な方法で実現しようとしているのです。
もちろん基本スペックもフラッグシップ
このヤバいパーソナライズ機能に目が行きがちですが、Tonaliteはイヤホンとしての基本性能も一級品です。
- ハイブリッドANC(アクティブノイズキャンセリング)
- アンビエント(外音取り込み)モード
- Bluetooth 6
- LDACコーデック対応(ハイレゾストリーミング)
- バッテリー:最大8時間(ケース込みで約24時間)
これだけの「全部入り」で、さらにあのパーソナライズが付いてくるわけです。
「なんとなく良い気がする」の時代が終わり、「実測」の時代が始まる
Final Tonaliteの登場は、オーディオ界における「変化の知覚」そのものです。
我々はこれまで、「パーソナライズ」という甘美な響きに、どこか“プラシーボ効果”のような曖昧さを感じていました。しかし、Finalは「ステッカー付きヘッドバンド」という、少しアナログで、しかし最高に“ガチ”なツールを我々に突きつけました。
「雰囲気で音をイジるのはもう終わりだ。これからは物理的に測定する」と。
このイヤホンは、間違いなく高価です。Kickstarterの支援者向け初期価格で329ドル。一般販売は2025年12月中旬予定。早期割引(最初の500人限定で約25%オフ)を逃せば、さらに高額になるでしょう。

