鳴り物入りで発表された「Apple Intelligence」。私たちのiPhone体験を根底から変えるはずだったそのAI機能が、今、大きな議論の渦中にあります。特に、多くのユーザーが夢見たSiriの超進化。しかし、その中核機能の提供が遅れていることを受け、「話が違うじゃないか」と米国で集団訴訟にまで発展しました。そらそうだ!ええ加減にせーよ!
「待望の機能が使えないなら、高いお金を出してiPhone 16を買わなかった」——そんなユーザーの悲痛な叫びに対し、Appleは「そもそも段階的に提供すると言っていた」と真っ向から反論。
この記事では、現在進行形で繰り広げられるAppleのAI虚偽広告訴訟の核心を、誰にでも分かりやすく解き明かします。一体何が争点なのか、Appleの主張は正当なのか、そしてこの一件は、私たちのスマートフォンとの付き合い方にどのような影響を与えるのか。その全てを、深く掘り下げていきましょう。



一体何が問題に?訴訟の核心は「Siriの頭脳」
今回の集団訴訟で、ユーザー側が特に問題視しているのは、Apple Intelligenceの目玉機能のうち、以下の2つの提供が遅れている点です。
- Siriのパーソナルコンテキスト認識
- Siriのアプリ内アクション
これらは単なる機能追加ではありません。Siriが「賢いアシスタント」から「あなただけの秘書」へと進化するための、まさに心臓部と言える機能でした。
パーソナルコンテキスト認識とは、Siriがあなたのメールやメッセージ、カレンダーといった複数のアプリを横断して情報を理解し、文脈を把握する能力です。「母から届いたメールに書いてあったフライトの時間、教えて」とか、「友人と約束したランチのお店、メッセージから探して予約して」といった、これまで不可能だった複雑な指示に応えられるようになるはずでした。
アプリ内アクションは、その上でさらにアプリをまたいで複雑な操作を音声一つで完結させる機能です。
原告(ユーザー)側の主張は至ってシンプルです。
「こんなにすごい機能がすぐに使えるからこそ、我々は高価なiPhone 16を購入した。発売時に使えないと知っていたら、購入しなかったか、もっと安く買うべきだった」
というものです。期待が大きかった分、その裏切りも大きい、というわけです。

Appleの猛反論「約束は破っていない」
一方、Apple側も一歩も引いていません。訴えの却下を求める申し立ての中で、同社はいくつかの強力な反論を展開しています。
- 訴えの範囲が広すぎる
Appleは、「訴状はたった2つの機能の遅延のみを問題にしている。我々はすでに20以上のApple Intelligence機能を提供しており、それを無視するのは不当だ」と主張しています。実際に、文章を要約・校正する「ライティングツール」や、オリジナルの絵文字を作る「Genmoji」などはすでに利用可能です。 - 品質のため、そして無料アップデートで提供される
遅延の理由についてAppleは、「Appleの高い品質基準を満たすため」と説明。そして最も重要な点として、遅れている機能も来年(2025年)の無料ソフトウェアアップデート(おそらくiOS 18.4など)で全てのユーザーに追加費用なしで提供されると明言しています。つまり、「最終的には約束を果たすのだから、問題はない」というスタンスです。 - 「段階的な提供」は最初からのアナウンス
Appleは、WWDC 2024での発表当初から、Apple Intelligenceの機能は「時間をかけて提供され、進化し続ける」と明確に伝えていたと強調しています。ユーザーが「発売と同時に全機能が使える」と誤解しただけで、Appleとしては虚偽の説明はしていない、という論理です。
さらに、iPhone 16自体の価値はAI機能だけではない、とも主張しています。チップ性能の向上やカメラ、ディスプレイの進化といったハードウェアの恩恵をユーザーは享受しており、デバイスに欠陥があるわけではない、としています。

この訴訟が私たちに問いかけるもの
この一件は、単なる一企業の訴訟問題では終わりません。AI技術が急速に進化する現代において、企業が打ち出す「未来のビジョン」と、ユーザーが実際に手にする「現実の製品」との間に生じるギャップをどう捉えるべきか、という大きな問いを投げかけています。
企業は開発中の革新的な機能を大々的に宣伝し、ユーザーの購買意欲を掻き立てます。しかし、その機能が予定通りに提供されなかった場合、どこまでが「許容範囲の開発遅延」で、どこからが「ユーザーを欺く虚偽広告」になるのでしょうか。
今回の訴訟の結果は、今後のテクノロジー業界全体における製品プロモーションのあり方に、大きな影響を与える試金石となるでしょう。

まとめ
今回のAppleのAI機能を巡る訴訟は、「未来への期待」を売るテクノロジー企業と、「現在の価値」を求める消費者との間の認識のズレが浮き彫りになった象徴的な出来事だと感じます。
Appleの主張する「品質向上のための遅延」や「段階的な提供」という言い分には、確かに一理あります。未完成な機能を世に出してユーザー体験を損なうよりは、万全を期してほしいという気持ちも理解できます。
しかし、ユーザー側からすれば、最も購入の決め手となったであろう「Siriの革命的な進化」が、手に入れてから1年以上もお預けになるというのは、肩透かしを食らったと感じても無理はありません。
