プライバシー最優先を掲げてきたアップルが、家庭の安全を預かるセキュリティ領域で異例の賭けに出た。同社が投入を計画しているビデオドアベルやスマートロックなどの新製品群が、韓国LGエレクトロニクスとの共同開発であると報じられたのだ。新型スマートホームハブの発表が目前に迫る中での浮上だが、そのタイミングはこれ以上なく不穏と言わざるを得ない。
最大の火種は、提携先であるLGが直面している前代未聞の監視スキャンダルだ。世界で約2億1600万台にのぼる同社製スマートテレビを巡り、画面解析にとどまらず、内蔵マイクによる会話の無断録音や同一ネットワーク内デバイスのデータ収集疑惑が独立調査によって発覚。LG側は疑惑を全面否定しているものの、自社の利用規約には「来客に対して会話が取得される可能性を周知せよ」という自己矛盾した文言を残したままであり、消費者の不信感はピークに達している。
こうした逆風の最中に姿を現しつつあるのが、UWB(超広帯域無線)対応のスマートドアロックをはじめ、サーモスタット、投光器内蔵を含む各種セキュリティカメラなど、生活空間の深部に踏み込むハードウェア群だ。だが、その展開手法には極めて奇妙な点がある。共同開発でありながら製品にはアップルのリンゴマークではなく「LG」のロゴのみが冠され、販売やサポート窓口もLGが引き受けるという点だ。

ここに透けて見えるのは、アップルによる冷徹なリスクヘッジに他ならない。AmazonのRingやGoogleのNestが自社ブランドのカメラやドアベルで先行するなか、量産力と家電ノウハウを持つLGの手を借りてホームエコシステムを一気に押し広げたい。その一方で、プライバシー問題が再燃した際には責任の矢面に立たず、自社の看板に泥がつく事態だけは回避する――そんな計算高さが透けて見える。
出荷開始は数か月先と見られ、直近の発表イベントでお披露目されるかはまだ定かではない。しかし、玄関の施錠や室内の見守りといった、極めて機微な情報を預けるデバイスで最も問われるのは利便性以上に「絶対的な信用」だ。
表舞台で泥を被らない立ち回りを狙うアップルと、信頼失墜の渦中にあるLG。この歪なタッグが生み出す製品群を、プライバシーに敏感なユーザーが諸手を挙げて自宅に迎え入れるとは到底思えない。
Source:Bloomberg


