私もずっとプレイしている「ARC Raiders」から、現代のオンラインゲームでは当たり前とも言える「オークション」機能が作られていたのにも関わらず、公開せずに削除されたというのだ。
正直に言えば、最初は「なんて不便なことをするんだ」と落胆した。目当ての装備が出ない時、溜め込んだゲーム内通貨でパパッと解決できる窓口が消えたのだから。
しかし、開発チームが語ったその理由は、あまりにも本質を突いていた。彼らは、私たちが陥りがちな「効率化という名の地獄」を、自らの手で未然に防ごうとしたのだ。
Source:GamesRadar
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開発者が下した断腸の思いの決断
ARC Raidersのデザインリード、ヴァージル・ワトキンス氏が明かした内幕は、非常に生々しいものだった。実は、開発チームは当初、オークションハウスのような大規模な取引システムを実際に構築し、テストしていたという。
しかし、そのシステムを動かした途端、ゲームの魂とも言える「探索の喜び」が、砂のように指の間からこぼれ落ちていった。
プレイヤーはもう、マップの隅々まで探索し、危険なエリアへ足を踏み入れることに意味を感じなくなったのだ。彼らが目指したのは、未知のコンテナを開けるワクワク感ではなく、ただ「時給の良い金稼ぎ」に成り下がってしまった。
効率化という名の毒がゲームを壊す

なぜ、便利なはずの取引所がリスクになるのか。開発チームが直面した「オークションハウスの弊害」を整理すると、現代のゲーマーが抱える皮肉な現状が見えてくる。
| 項目 | オークションハウスがある世界 | シンプルな直接トレードの世界 |
| プレイヤーの関心 | アイテムを売った「金額」 | アイテムそのものの「価値」 |
| ゲーム体験 | メニュー画面とのにらめっこ | フィールドの探索と生存 |
| 感情のピーク | 出品が売れた瞬間 | 欲しかった素材を見つけた瞬間 |
| ゲームの寿命 | 効率化により急速に短縮 | 発見の喜びにより維持される |
ワトキンス氏は、プレイヤーが「コイン」だけに集中し、最も価値のあるアイテムを換金して欲しいものを買うだけのマシーンになっていく姿を目の当たりにした。
そこには、苦労して手に入れた時の「ああ、やっとこれを見つけた!」という爽快感は微塵もなかったという。
ARC Raidersが目指す手渡しの温もり

開発チームが最終的に選んだのは、オークションのようなシステム的な取引ではなく、もっと原始的で、人間味のある「直接交換」だった。
地面にアイテムを置き、それを誰かが拾う。あるいは、物理的にアイテムを運び出し、仲間と共有する。この不便とも思えるアクションこそが、ゲーム内でのコミュニケーションを熱くする。
誰かと直接顔を合わせ、リスクを冒して持ち帰った戦利品を手渡す。そこには、数字だけのやり取りでは決して得られない「手触り」が宿るはずだ。
私たちがゲームに求めているのは効率なのか
かつてシステム開発に携わっていた私の視点から見ても、この決断は極めて勇気のいるものだ。今の時代、ユーザーは「タイパ(タイムパフォーマンス)」を重視する。不便なシステムを実装すれば、必ず不満の声が上がるだろう。
それでも、彼らは「ゲームとしての面白さ」を守るために、あえて批判を覚悟で利便性を捨てたのだ。
私自身、効率を求めすぎて、気づけばゲームを「仕事」のようにこなしていた経験がある。最強の装備を最短で揃えた後、ふと虚無感に襲われる。そんな時、心に残っているのは効率的な金策ルートではなく、偶然見つけた隠し部屋の景色だったりする。
ARC Raidersが守ろうとしたのは、その「ふとした驚き」なのだ。





