私たちは長い間、数字の魔法にかかっていました。「数字が大きければ大きいほど偉い」。スマートフォンのチップセットにおいて、それは絶対的な真理だったはずです。新しいフラッグシップが出れば、少しでもスコアが高い方を崇める。それがガジェット好きの、ある種の「お作法」でした。
しかし、今回リークされたOnePlus Ace 6Tと、その心臓部である「Snapdragon 8 Gen 5」のベンチマーク結果を見たとき、私はそのお作法が崩れ去る音を聞いた気がしました。
これまで「廉価版」や「下位モデル」という言葉には、どこか「我慢」のニュアンスが含まれていました。しかし、この新しいチップセットが示しているのは、我慢ではなく「賢すぎる選択」という新しい価値観です。
OnePlus Ace 6Tに搭載されたこの謎多きチップの実力を、昨年の王者Snapdragon 8 Eliteと比較しながら、私たちユーザーにとって何が本当に重要なのかを紐解いていきましょう。
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CPU性能は「ほぼ互角」という衝撃の事実
まず、Novice Evaluationによって明らかにされたGeekbench 6のスコアを見て、正直なところ私は二度見しました。
Snapdragon 8 Gen 5(OnePlus Ace 6T搭載)のスコアは以下の通りです。 シングルコア:2,957 マルチコア:10,236
対して、上位モデルとされるSnapdragon 8 Eliteのスコアはどうでしょうか。 シングルコア:3,256 マルチコア:10,358
気付きましたか?マルチコア性能において、その差はわずか100ポイント程度。誤差と言っても差し支えないレベルです。シングルコアでは約10%の差がありますが、日常のアプリ操作やマルチタスクにおいて、この差を体感できる人間がどれだけいるでしょうか。
これまでメーカーは「Pro」や「Ultra」の名の下に、圧倒的な性能差をアピールしてきました。しかし、この「サブプレミアム」と位置付けられたGen 5は、純粋な処理能力において、兄貴分であるEliteの背中を完全に捉えているのです。
これは、「最高級品を買わなければ最高の体験はできない」というこれまでの常識に対する、痛快なアンチテーゼのように感じます。

GPU性能に見る「棲み分け」のリアル
CPUで肉薄した一方で、GPU(グラフィック性能)には明確な境界線が引かれています。ここが、このチップセットの立ち位置を理解する鍵となります。
3DMarkのベンチマーク結果を見てみましょう。
Steel Nomad Lightテスト Snapdragon 8 Gen 5:2,088 Snapdragon 8 Elite:2,550
WildLife Extremeテスト Snapdragon 8 Gen 5:5,681 Snapdragon 8 Elite:7,156
ここでは約20%の性能差が現れています。技術的な話をすれば、Gen 5に搭載されているAdreno 829 GPUは、Eliteに搭載されているAdreno 840の「ビンバージョン」であるため、物理的なスペック差通りにスコアが落ち着いています。
ただ、ここで立ち止まって考えてみたいのです。この「20%の差」は、私たちの生活のどこに影響するのでしょうか?
もしあなたが、最新の3Dゲームを最高画質かつ最高フレームレートで常にプレイし続けたい「ガチ勢」なら、この差は決定的です。迷わずEliteを選ぶべきでしょう。しかし、SNSを見たり、動画を編集したり、あるいは一般的なゲームを楽しむ程度であれば、Gen 5のスコアは依然として「オーバースペック」な領域にあります。
つまり、OnePlus Ace 6TとSnapdragon 8 Gen 5は、過剰なGPU性能を削ぎ落とし、実用的なCPU性能は維持した」アスリートのような存在なのです。

OnePlus 15R(Ace 6T)が変える2025年の選択基準
このベンチマーク結果が示唆しているのは、今後のスマートフォン選びにおける「賢い妥協」の重要性です。
OnePlus Ace 6T(グローバル版はOnePlus 15Rとして登場予定)は、このチップセットを搭載することで、フラッグシップ機よりも安価に市場に投入されるでしょう。
しかし、Webブラウジングやアプリの起動速度といった「スマホ体験の根幹」においては、倍近い価格の端末と遜色ない動きを見せるはずです。
私たちはこれまで、不安だからという理由で、使いもしない性能にお金を払ってきたのかもしれません。「大は小を兼ねる」と言いますが、持ち運ぶことのない重たいバーベルを買う必要はないのです。

