ミッドレンジスマートフォンの「心臓部」に、新たな選択肢が登場しました。クアルコムは、世界に向けて「Snapdragon 6s Gen 4」を正式に発表。Snapdragon 6シリーズの最新モデルとして、前世代からの大幅なパフォーマンス向上を謳っています。
先月にはハイエンド向けの「Snapdragon 8 Gen 5」ファミリーが発表されたばかりですが、それに続く形で、より多くのユーザーが手にするボリュームゾーンの製品ラインが更新された形です。
しかし、発表された「CPU 36%高速化」「GPU 59%向上」という魅力的な数字の裏には、少々複雑な事情が隠されているようです。
この新しいチップセットの「正体」と、私たちが本当に注目すべきポイントはどこにあるのでしょうか。
Source:クアルコム
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公式発表が示す「Snapdragon 6s Gen 4」の姿
まず、クアルコムが公式に発表した内容を見てみましょう。
「Snapdragon 6s Gen 4」は、4nmプロセスで製造される最新のチップセットです。CPU構成は、2.4GHzで動作する4つのパフォーマンスコアと、1.8GHzで動作する4つの効率コアから成り立っています。
クアルコムは、この新しいCPUが「前世代」と比較して36%高速化し、GPU性能に至っては59%も向上すると強調しています。これが事実であれば、ミッドレンジのスマートフォンでも、より快適なゲーム体験やスムーズなマルチタスクが可能になることを意味します。

その正体は? 部品番号と「比較対象」の謎
しかし、ここで一つの疑問が浮上します。公式が言う「前世代」とは、一体どのモデルを指しているのでしょうか?
論理的に考えれば、Snapdragon 6s Gen 3(もし存在するならば)や、直近のSnapdragon 6 Gen 4と比較されるべきです。しかし、今回の「Snapdragon 6s Gen 4」の部品番号は「SM6435-AA」とされています。
この番号は、すでに市場に出回っている「Snapdragon 6 Gen 1(SM6450)」に近いものであり、複数の業界筋は、今回のチップがSnapdragon 6 Gen 1の「類似品」またはリフレッシュ版ではないかと指摘しています。(Snapdragon 6 Gen 1は、Honor Magic 7 LiteやMoto G Stylus 5G 2024などに搭載されている実績あるチップです)
さらに興味深いのは、発表されたCPUレイアウトとクロック速度(2.4GHz x4 + 1.8GHz x4)が、実は「Snapdragon 6 Gen 3」と全く同じであるという点です。
このことから、「Snapdragon 6s Gen 4」という名称は、完全な新設計のチップというよりも、既存のSnapdragon 6 Gen 1やGen 3の系譜に連なる、マイナーチェンジモデルである可能性が極めて高いと言えます。
そうなると、「CPU 36%向上」という数字は、これらの直近モデルとではなく、さらに古い世代のチップ(例えばSnapdragon 695など)と比較した際の数値である可能性も否定できません。


では、何が進化したのか? Gen 3との「真の違い」
では、CPU性能がSnapdragon 6 Gen 3と同等だとして、「Snapdragon 6s Gen 4」を選ぶメリットはどこにあるのでしょうか。クアルコムが提示した製品概要には、CPU以外の明確な進化点も記載されています。
- ディスプレイサポートの強化
1080p解像度において、最大144Hzのリフレッシュレートをサポート。 - 接続性の向上
Bluetooth 5.4に対応。
CPUパワーが同じでも、144Hzというハイリフレッシュレートに対応したことは、ミッドレンジのゲーミングスマホや、滑らかな画面表示を求めるユーザーにとって大きな魅力となります。
また、Bluetooth 5.4は、より安定し、低遅延なワイヤレス接続(イヤホンなど)を実現するために貢献します。

名称に惑わされず、着実な進化点を見極める
今回発表された「Snapdragon 6s Gen 4」は、「Gen 4」という響きから想像するような世代交代(フルモデルチェンジ)ではなく、既存の優秀なチップセット(Gen 1 / Gen 3)をベースにした「改良版(リフレッシュ)」と捉えるのが現実的でしょう。
CPU性能36%向上という謳い文句は、おそらく比較対象の取り方によるもので、Snapdragon 6 Gen 3からの劇的な飛躍を意味するものではなさそうです。

