ある日の午後、自宅の前に停めておいたはずの愛車が、誰も乗っていないのに突然スルスルと走り出してしまったら…?
まるでSF映画のワンシーンのような出来事が、スマートフォン大手Xiaomiが開発した最新EV「SU7」で現実に起こりました。所有者が慌てて後を追いかける衝撃的な監視カメラの映像は瞬く間に拡散され、「車が勝手に動いた」「ハッキングか、それとも欠陥か」と世界中の人々を震撼させました。
当初は車両のシステム異常が強く疑われましたが、Xiaomiによる徹底的な調査の結果、明らかになったのは全く別の、しかし非常に現代的な原因でした。それは、私たちの誰もが手にしている「スマートフォン」に潜む、思わぬ落とし穴だったのです。
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所有者を置き去りに…白昼の「無人走行」の一部始終
事件の様子は、所有者の自宅に設置された防犯カメラに克明に記録されていました。
映像には、玄関先に駐車されているシルバーのXiaomi SU7と、家の中にいる所有者の男性と女性が映っています。その次の瞬間、SU7は何の前触れもなく静かに発進。驚いた女性の悲鳴が響き渡り、事態を察した男性が慌てて車を追いかけていきます。
所有者はメディアの取材に対し、「車を動かすような操作は一切していない。走り出した時、車内は完全に無人だった」と主張。すぐさまXiaomiのカスタマーサービスに連絡したところ、担当者からは「誤って携帯電話に触れてしまったのではないか」という、にわかには信じがたい返答があったといいます。
納得のいかない所有者は、自身の潔白を証明するために監視カメラの完全な映像を公開。そこには、車が動き出した瞬間に彼がスマートフォンを操作していない様子がはっきりと映っていました。車両の欠陥を疑う声が、日に日に高まっていきました。
ログデータが語った真実と「意外な犯人」
深刻な事態と判断したXiaomiは、直ちに徹底的な調査を開始。車両からバックエンドデータを収集し、何が起きたのかを精密に解析しました。そして、判明したのは衝撃の事実でした。
Xiaomiは「車両の品質に問題はない」と前置きした上で、「SU7は、所有者のiPhone 15 Pro Maxから発信された遠隔駐車コマンドに従って動作した」と結論付けたのです。
車両のログには、問題の時間にiPhoneからコマンドが送受信された記録が明確に残っていました。当初はこの説明に懐疑的だった所有者も、Xiaomiの技術者と共に詳細なログデータを確認。その結果、EVメーカーの主張が事実であることを認めざるを得ませんでした。
では、なぜ所有者は「操作した覚えがない」にもかかわらず、iPhoneからコマンドが送信されてしまったのでしょうか。

便利な「呼び出し機能」が生んだ悲劇と初期対応の混乱
原因となったのは、Xiaomi SU7に搭載されている先進運転支援システム(ADAS)の一機能でした。これは、テスラの「スマートサモン機能」に非常によく似たもので、スマートフォンのアプリを使って車を遠隔で駐車させたり、駐車スペースから自分のいる場所まで呼び出したりできる便利な機能です。
Xiaomiの調査によれば、所有者のiPhoneがポケットやバッグの中などで何かに押されたり触れたりしたことで、意図せずこの「呼び出しコマンド」がアプリから送信されてしまった、というのが事件の真相でした。所有者に操作したという認識がなかったのも当然と言えます。
さらに、この事件の混乱に拍車をかけたのが、Xiaomi側の初期対応のミスです。実は、車両には所有者男性の「iPhone 15 Pro Max」と、女性の「iPhone 16 Pro」という2台のスマホが登録されていました。
カスタマーサービスの担当者が、ログデータに記録されていたデバイス識別子と実際のモデル名を混同し、誤った案内をしてしまったのです。この点についてXiaomiは後に正式に謝罪し、再発防止を約束しています。
