仕事や勉強に追われる毎日、ようやく確保した1時間のゲームタイム。意気揚々と最新作を起動したものの、たった一体のボスに阻まれて、気づけば一度も進展のないまま時間だけが過ぎていく……。そんな「虚無感」を味わったことはありませんか?
いま、SNSや動画サイトでは「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉が溢れています。結末だけをサクッと知りたい、無駄な苦労はしたくないという価値観が広がる中で、ソニーが申請したある特許が、ゲーマーたちの間で大きな波紋を広げています。その名も「AIゴースト」。
かつて、私たちは攻略本を片手に、あるいは数え切れないほどの「GAME OVER」の文字を浴びながら、自力で壁を乗り越えてきました。
しかし、ソニーが描く未来では、その「壁」そのものがAIによって形を変えようとしています。この技術は、私たちの冒険を救うヒーローになるのか、それとも大切な達成感を奪う余計なお世話になるのでしょうか。
Source:Boing Boing
AIゴーストの正体とは?YouTubeやTwitchの「何千時間もの映像」を学習
ソニーが構想している「AIゴースト」は、従来のチュートリアルとは一線を画します。これまでのゲーム内ガイドといえば、画面の隅に「〇ボタンで回避」と表示される程度の、味気ないものでした。
しかし、この特許が実現しようとしているのは、世界中の熟練プレイヤーがYouTubeやTwitchにアップした膨大なプレイ映像をリアルタイムで学習した「デジタルな分身」です。

あなたがエルデンリングのような死にゲーで、あるボスの理不尽な連続攻撃に絶望しているとき、AIゴーストがひらりと現れます。それは単なる残像ではなく、最新のデータセンターから抽出された「正解の動き」を、あなたの目の前で、あなたのプレイ状況に合わせて実演してくれるのです。
さらに驚くべきは、このAIが「目の動き」まで追跡する可能性がある点です。ソニーの公式ライセンスカメラを通じて、あなたが画面のどこを見て、どこでパニックに陥っているのかをAIが察知し、「いま、右後ろを見て!」と、まるで隣でプロゲーマーがコーチングしてくれているような体験を提供しようとしています。
ってことは…
Apexをプレイ中に、ImperialHalの残像が現れて、相手をどうやって倒せるか観せてくれるってこと…?
ではないか…残念!!!
攻略の喜びか、それとも「やらされている」感か

ここで、多くのベテランゲーマーが抱くであろう「ある種の不安」に触れなければなりません。
ゲームの醍醐味とは、失敗を繰り返し、パターンを覚え、ようやく勝利を掴み取るプロセスにあります。もし、AIが「こう動けば勝てますよ」と手取り足取り教えてくれ、なんなら操作まで代行してくれるとしたら。それは果たして「自分がプレイした」と言えるのでしょうか。
私自身、何時間も同じステージで詰まり、コントローラーを投げ出したくなった夜は何度もあります。しかし、翌朝のふとした瞬間に攻略の糸口を見つけ、手が震える中でボスを倒したあの瞬間、自分自身の成長を実感します。AIゴーストはこの「変化の知覚」をショートカットしてしまう恐れがあります。
一方で、これはアクセシビリティにおける巨大な一歩でもあります。身体的なハンデキャップを持つ方や、反射神経の衰えを感じている方、あるいは仕事で疲れ切っていて、ただ物語を体験したいという方にとって、この「救済措置」はゲームというエンターテインメントの門戸を大きく広げることになるでしょう。


私たちのプレイは「監視」されている?
この特許ニュースを深掘りすると、もう一つの不穏な影が見えてきます。それは、ソニーが先月申請した「リアルタイム検閲特許」との関わりです。不適切な表現をぼかしたり、年齢に合わせてセリフを改変したりする技術。
AIゴーストが私たちのプレイを学習し、状況を常に監視するシステムと、この検閲技術が組み合わさったとき、ゲーム体験は「安全で管理されたパッケージ」へと変貌します。
「私のプレイデータは、勝手にAIの学習材料にされるのか?」 「表現の自由は、アルゴリズムによって制限されてしまうのか?」
そんなニッチで深い懸念が、コアなファン層の間に広がっています。ソニーの狙いは、決してプレイヤーを縛ることではないはずです。
むしろ、誰もが脱落することなく、最後までそのゲームの世界を楽しんでほしいという「親心」に近いものかもしれません。しかし、その親心が、時に表現のトゲや挑戦の価値を削ぎ落としてしまうリスクも孕んでいるのです。
変化を受け入れる準備はできているか

この特許が実際に全てのPS5や次世代機に搭載されるかどうかはまだ分かりません。特許はあくまで可能性の種に過ぎないからです。
ただ一つ確かなのは、ゲームを「苦労してクリアするもの」という定義が、変わりつつあるということです。AIゴーストは、私たちが忙しい日常の中で失いかけている「ゲームを完走する」という体験を、再び取り戻させてくれるツールになるかもしれません。
大切なのは、その機能を使うか使わないかを選択する自由が、私たちプレイヤーの手に委ねられていることです。AIに導かれる「スマートな冒険」を選ぶのか、それとも泥臭く死に物狂いで戦う「孤独な挑戦」を貫くのか。
2026年、プレイステーションが提案する新しい遊び方は、私たちの「ゲーマーとしてのアイデンティティ」を、改めて問い直すことになりそうです。




