サムスンが誇る次世代の切り札、「Exynos 2600」チップ。最先端の2nm GAA(ゲート・オール・アラウンド)プロセスを採用し、鳴り物入りで発表されたこのフラッグシッププロセッサが、まさか「韓国限定」となる可能性が浮上しているというのです。
世界中のGalaxyファンがその性能に期待を寄せる中、なぜ自社製の最高峰チップの採用がごく一部の市場に限定されてしまうのか? この驚くべき事態の背後には、長年の技術的な課題、そして巨大なビジネス契約という、非常に複雑で泥臭いウラ事情が絡み合っていました。

なぜサムスンは自社チップに自信を持てないのか?
「Exynos」と聞いて、一部の熱心なテックファンが眉をひそめる――これは長年の懸念事項です。サムスンが自社のスマートフォンに搭載してきたExynosチップは、ライバルであるQualcommのSnapdragonと比較して、常に「熱問題」と「パフォーマンスの一貫性の欠如」という批判に晒されてきました。
特に顕著だったのは、チップが設計上のピーク性能を維持できず、負荷がかかるとすぐに発熱して動作が不安定になる、いわゆるサーマルスロットリングの問題です。ユーザーは、ゲームや高負荷なアプリを使う際に、Exynos搭載モデルがSnapdragon搭載モデルよりも早く「息切れ」してしまうのを体感してきました。
この歴史的なハンディキャップは、消費者の間に「Exynos搭載モデルはSnapdragon搭載モデルよりも劣る」という強い先入観を生み出してしまいました。
もはやこれは技術的な問題だけでなく、「ブランドイメージ」の問題にまで発展しているのです。この「Exynosアレルギー」とも言える否定的な認識が、世界市場での展開を大きく制限する、一つの根深い理由となっています。

サムスンが本気で克服しようとした技術課題
しかし、サムスンも手をこまねいていたわけではありません。次期フラッグシップであるExynos 2600の開発においては、これらの悪評を払拭するための並々ならぬ努力が払われています。
報道によると、新しいExynos 2600には、チップの動作温度を最大30%も削減できるとされる「ヒートパスブロック」という新技術が導入されているとのこと。これはチップ自体を効果的なヒートシンク(放熱器)として機能させることで、発熱問題を根本から解決しようとする野心的な試みです。
さらに、製造面でも大きな進展が見られます。最先端の2nm GAAプロセスという、非常に難易度の高い技術を採用しながら、サムスンファウンドリーは歩留まり(製造されたチップのうち、欠陥がなく正常に動作するものの割合)を50%にまで向上させたと主張しています。この数字は、前世代のプロセスから見れば目覚ましい改善であり、量産体制への自信を裏付けるものです。

Galaxy S26の75%はSnapdragonが「義務」
Exynos 2600が技術的なブレークスルーを達成しつつあるにもかかわらず、その採用が韓国限定となる最大の、そして最も動かしがたい理由は、ビジネス契約にあります。
業界筋の情報によると、サムスンとQualcommの間には、Galaxy Sシリーズのスマートフォンの少なくとも75%にSnapdragonチップセットを搭載することが義務付けられた、長期契約が存在すると報じられています。
この契約は、かつてSnapdragonのシェアが一時的に低下した時期に、Qualcommがサムスンとの関係を盤石にするために結ばれたものと考えられます。
自社の技術力を世界に示したいというエンジニアの熱意と、ビジネス上の契約を遵守しなければならない経営陣の現実的な判断。この二律背反こそが、サムスンという巨大企業内部で起こっている「自己矛盾」です。自分の家で作った最高の食材(Exynos)があるのに、外部のレストラン(Qualcomm)に一定の割合で食材の購入を義務付けられているようなものです。

🌍 韓国限定販売の裏にある「テストマーケティング」と「ブランド回復」の戦略
では、なぜ「韓国限定」という形になるのでしょうか?
まず、韓国はサムスンの「お膝元」であり、市場での影響力が最も強い地域です。熱烈な愛国心を持つユーザーも多く、自国のハイテク技術を応援したいという空気もあります。この市場でExynos 2600を限定的に投入することで、サムスンはいくつかの目的を達成しようとしていると考えられます。
この状況は、単に「ExynosがSnapdragonに負けた」という単純な話ではありません。これは、「技術的な挑戦と進歩(ヒートパスブロックと2nm GAA)」というポジティブな変化が起こっているにもかかわらず、「過去の失敗とビジネス上の既得権益(Qualcommとの契約)」という重い枷によって、その変化が世界に広がるのを阻まれているという、未来への希望と現在の制約との間の摩擦を私たちに感じさせます。
結局のところ、世界の大多数のGalaxy S26購入者は、Snapdragonチップ搭載モデルを手にすることになるでしょう。これは、性能重視のユーザーにとっては歓迎すべきことかもしれませんが、サムスンというハイテク巨人が自社の技術力を自由に市場に展開できないという事実は、企業戦略の難しさと限界を浮き彫りにしています。

