「ポータブルモニター」
この言葉を聞いて、あなたの頭に浮かぶのはどんなイメージだろうか?
おそらく、カフェや出張先でノートPCの横にちょこんと置ける、14インチか15インチ程度の、薄くて軽い「板」のようなデバイスではないだろうか。バックパックのPCスリーブに、ノートPCと一緒に入れて持ち運ぶ、あの感じ。
俺もそうだ。ついさっきまで、それが「常識」だと思っていた。
サムスンが、その「常識」を、まったく悪意のない顔で、根本からひっくり返しに来た。
その名も『Samsung Movingstyle』。
韓国で先行発売されて話題になっていたこの「シロモノ」が、ついに全世界で発売された。
問題は、そのサイズだ。27インチ。
もう一度言う。27インチだ。
「もちろん、バックパックに入れて持ち運ぶことはできません」
公式がそう言い切る潔さ。代わりに用意されたのは、隠しキャスター付きの回転式フロアスタンド。
そう、こいつは「外」に持ち出すんじゃない。「家の中」を移動(Move)させるための、まったく新しいスタイルの「ポータブル」モニターだったんだ。
しかも、こいつは単体で最大3時間動くバッテリーまで内蔵している。……それ、もう「実質的に巨大なタブレット」じゃないか。
だが、本当の「事件」はそこじゃない。
同時に発表された「32インチ Movingstyle M7」との、あまりにも不可解な「価格の逆転現象」だ。この記事では、このサムスンの奇妙な値付けの謎を解き明かし、俺たちが本当に買うべき「未来のモニター」がどちらなのか、徹底的に掘り下げていく。
価格が逆転した2つの「Movingstyle」
まず、今回グローバルデビューを果たした主役と準主役(あるいは食うか食われるかの関係か)のスペックを、冷静に整理するところから始めよう。
この2台、パッと見は「大は小を兼ねる」で、32インチの方が上位モデルに見える。だが、サムスンが付けた「価格」は、俺たちのその単純な予測を嘲笑うかのように、ねじれていた。
■ 主役:27インチ「Movingstyle (LSM7F)」
こいつが、今回の「問題作」だ。
- 価格:$1,199 (約18万円 ※$1=150円換算)
- コンセプト: バッテリー内蔵(最大3時間)、キックスタンド&キャスター付きスタンドで「家ナカ」を自由自在に移動。
- パネル: 27インチ QHD (2,560 x 1,440) LED
- リフレッシュレート: 120Hz
- 機能: HDR10+ Adaptive, Dolby Atmos, 10Wスピーカー
- OS: TizenOS搭載(これ単体でスマートTVになる)
- 接続性: USB-C x2, HDMI (eARC) x1, Wi-Fi 5, BT 5.3
見ての通り、「高解像度」よりも「滑らかさ(120Hz)」と「機動力(バッテリー&スタンド)」に全振りしたスペックだ。そして、この「体験」に対して、サムスンは$1,199という強気な価格を提示した。

■ 比較対象:32インチ「Movingstyle M7」
そして、こちらが「価格のバグ」を疑わせる、もう一方の雄だ。
- 価格:$699.99 (約10万5千円 ※$1=150円換算)
- コンセプト: こちらはバッテリー非搭載。スタンドもおそらくシンプルなものだろう。従来の「スマートモニター」の大型版に近い。
- パネル: 32インチ 4K (3,840 x 2,160) VAパネル
- リフレッシュレート: 60Hz
- 機能: 輝度300nits, 応答速度4ms, 10Wスピーカー
- OS: TizenOS搭載(こちらも単体で動作)
- 接続性: HDMI x2, USB-A x3, USB-C (65W給電) x1, Wi-Fi 5, BT 5.3
おい、ちょっと待て。
32インチの4Kモデルが、$699.99?
27インチのQHDモデルが、$1,199?
サイズも解像度も劣る27インチモデルが、32インチ4Kモデルより約500ドル(約7万5千円)も高い。
普通に考えれば、価格設定が逆だろう。
だが、この「ねじれ」こそが、サムスンが俺たちに提示してきた「新しい価値観」の正体なんだ。

なぜ27インチモデルは「割高」なのか?その価格差の正体
この$500の価格差は、いったい何なんだ?
俺は、その答えを「スペック表」から読み解いた。
リフレッシュレート「120Hz」という「体験」のコスト
最大の理由は、これだ。
27インチモデルは「120Hz」、32インチM7は「60Hz」。
この「120Hz」という数字は、もはや「ゲーミングモニター」だけの専売特許じゃない。iPhone 13 Pro以降のProモデルが「ProMotion(120Hz)」を採用したことで、俺たちの目は「滑らかな映像」に慣れてしまった。
60Hz(1秒間に60回画面を更新)と120Hz(1秒間に120回更新)。
この差は、Webサイトのスクロール、マウスカーソルの動き、動画の滑らかさ、そのすべてにおいて「別次元」の快適さを生む。
32インチM7が「映像を見る」ことに特化した4K/60Hzの「据え置き型」であるのに対し、27インチMovingstyleは、Galaxyスマホやタブレットのサブディスプレイとして「操作する」ことも想定した、120Hzの「アクティブな」デバイスなんだ。

「どこでも」を実現する「バッテリー」と「専用スタンド」という「機構」のコスト
当たり前だが、32インチM7はコンセントに繋がなければ動かない。
だが、27インチMovingstyleは、単体で最大3時間動く。
リビングで映画を観ていた続きを、そのまま寝室に「コロコロ」と転がして持っていき、ベッドサイドで観終える。
キッチンでレシピ動画を見ながら料理をし、終われば書斎に持っていき、PCのサブモニターとして使う。
この「コンセントの呪縛」からの解放。そして、それを実現するための「バッテリー」と「隠しキャスター付きフロアスタンド」という物理的なギミック。
$500の価格差の多くは、この「家ナカ・モビリティ」という体験そのものに支払われる対価だ。
結論:サムスンは「スペック」ではなく「ライフスタイル」を売ろうとしている
もうお分かりだろう。
サムスンは、この2台で「格付け」をしているんじゃない。まったく異なる「提案」をしているんだ。
- 32インチ M7 ($699.99)
「コスパ良く、大きな4K画面でTizenOSの便利さを体験したい」という、堅実なユーザー向けの「据え置き」スマートモニター。 - 27インチ Movingstyle ($1,199)
「価格は高くても、家のどこにでも『最高の視聴環境』を連れていきたい」という、新しいライフスタイルを求めるユーザー向けの「移動式」エンターテイメント・ハブ。
27インチQHDが120Hzパネルとバッテリーを搭載して$1,199。これは、もはや「モニター」の価格設定じゃない。これは「巨大なタブレット」あるいは「新しいカタチのテレビ」の価格なんでしょうね。とりあえず、いつものように日本発売は未定ってことで。
Source:Samsung

