PCゲーミング周辺機器の世界には、長らく君臨する絶対的な王たちがいる。Razerの革新性、Logitech Gの信頼性、そしてSteelSeriesの実用性。多くのゲーマーは、自らのデスクをこれらのブランドで固めることに何の疑いも持たなかった。そこに新たな風が吹くことはあっても、玉座を揺るがすほどの嵐が起きることは、もはやないだろうと。
しかし、2025年、秋。エレクトロニクス界の巨艦・ソニーが、ついにその沈黙を破る。
これまでヘッドセットやモニターで静かに存在感を示してきたゲーミングブランド「INZONE」。その名を冠した初のゲーミングキーボード、超軽量マウス、そして新型インイヤーモニターが、市場という名の戦場へ一斉に投下される。これは単なる製品ラインナップの拡充ではない。既存の勢力図を根底から覆そうとする、ソニーが叩きつけた明確な「挑戦状」だ。なぜ彼らはこのタイミングで、飽和した市場に本気で挑むのか。その野心と勝算を、発表された新製品群からじっくりと読み解いていこう。
今回登場した『INZONE E9』と『INZONE H9 Ⅱ』に関しては、私もいろいろと参考にさせて頂いている、さっさんの動画をおすすめしています。私が解説記事を書くよりも、こちらの動画の方が100倍解りやすいので、是非ご覧ください。


※こちらの新商品は、9月5日発売で現在Amazonにて予約受付中となっています。

デスクをINZONEで染め上げる。ソニーの壮大なエコシステム戦略
今回の発表で最も注目すべきは、ソニーが個々の製品の性能だけでなく、「デスク全体をINZONEで統一する」という壮大なエコシステムを描いている点だ。
これまでのINZONEは、優れたオーディオ技術を活かしたヘッドセットや、PlayStation 5との連携も視野に入れた高性能モニターが中心だった。しかし、今回新たに加わったのは、ゲーマーの”手”そのものとなるキーボードとマウス、そしてその操作を支えるマウスマットだ。
- INZONE KBD-H75 ゲーミングキーボード
- INZONE Mouse-A ゲーミングマウス
- INZONE Mat-F / Mat-D ゲーミングマウスマット
- INZONE E9 インイヤーモニター
- INZONE H9 II 新型ヘッドホン
これらが揃うことで、入力デバイスから出力デバイスまで、すべてがソニーの思想のもとにデザインされた、一貫性のあるゲーミング環境が完成する。これは、長年コンシューマーエレクトロニクスで培ってきたソニーだからこそ描ける、強烈なブランド戦略と言えるだろう。
勝利への執念が生んだ、2つの”究極” – INZONEキーボード & マウス
ソニーが後発でありながら、市場の猛者たちに伍していくための「答え」。それは、スペックに一切の妥協を許さない、プロフェッショナルグレードの製品開発にあった。
至高の打鍵感と応答速度を宿す「INZONE KBD-H75」

キーボードは、ゲーマーが最も長く触れるデバイスだ。その重要性を理解しているソニーは、KBD-H75に惜しみない技術を投入した。まず目を引くのは、CNC加工されたアルミニウム製の筐体。剛性の高いフルメタルボディは、激しい操作でもびくともしない安定感と、所有欲を満たす高級感をもたらす。
75%フォーマットは、デスクスペースを確保しつつ必要なキーを維持する、競技シーンで人気のレイアウトだ。そして心臓部には、8,000Hzの超高速ポーリングレートと、アクチュエーションポイント(キーが反応する深さ)を自在に調整できるラピッドトリガー機能を搭載。これにより、コンマ1秒の反応速度が勝敗を分ける世界で、究極の入力精度を実現する。
”無重力”の操作感「INZONE Mouse-A」

一方のマウスは、「軽さ」という価値を極限まで追求した。本体重量わずか48.4gという驚異的な軽さは、手首を主体に素早くマウスを動かすプレイスタイルのゲーマーにとって、まさに理想の武器となる。腕の疲労を極限まで軽減し、長時間のプレイでも集中力を途切れさせない。
もちろん、軽さのために性能が犠牲にされているわけではない。キーボードと同じく8,000Hzのポーリングレート、そして30K DPIという超高解像度センサーを備え、寸分の狂いもないエイムをサポート。さらに、ワイヤレスでありながら最大90時間のバッテリー駆動時間を確保しており、「バッテリー切れ」というワイヤレスマウス最大の敵に対する、ソニーからの完璧な回答と言えるだろう。
勝利の選択肢を広げる、完璧なサーフェスとサウンド
主役級のキーボードとマウスを支える脇役たちも、ソニーのこだわりが詰まっている。
2種類のマウスマットは、プレイヤーの好みに完璧に対応する。より正確な操作を求めるプレイヤーには、コントロールタイプの「INZONE Mat-F」。一瞬の高速フリックで敵を薙ぎ倒したいプレイヤーには、スピードタイプの「INZONE Mat-D」。どちらを選ぶかで、あなたのプレイスタイルはさらに研ぎ澄まされるはずだ。

そして、音響の巨人ソニーが新たに投入する「INZONE E9 インイヤーモニター」も、ゲーミングオーディオの新たな選択肢として非常に興味深い。従来のヘッドホンとは異なる、よりダイレクトで没入感の高いサウンド体験が期待される。
【まとめ】
ソニーは、なぜ今、この激戦区に飛び込んできたのか。その答えは、発表された製品群の圧倒的な「本気度」に隠されている。
彼らは、単に「ソニー」というブランド名だけで勝負しようとはしていない。CNC加工のメタルボディ、8,000Hzのポーリングレート、ラピッドトリガー、48.4gの超軽量設計。これらのスペックは、既存のトップブランド製品を徹底的に研究し、その上で「ソニーならこれ以上のものが作れる」という、技術者たちの強い意志とプライドの表れだ。
長年、コンシューマー市場で王として君臨してきた巨人が、その膨大な開発リソースとブランド力を、PCゲーミングという一点に集中させてきた。それは、既存の王者たちにとって最大の脅威であると同時に、我々ゲーマーにとっては、市場の競争が活性化し、より優れた製品が生まれることを意味する、最高のニュースに他ならない。
Razerか、Logitechか、それともソニーか。私たちのデスクの上で繰り広げられる新たな覇権争いは、今まさに、その幕を開けたばかりだ。
