ゲーミングデバイスの巨頭Razerが、ファン心理を強烈に揺さぶる究極のコレクターズアイテムを繰り出してきた。同社の象徴である「三つ首の蛇」ロゴをそのまま立体化した限定キーキャップ「Razer Artisan Keycap」だ。実用性を潔いほど削ぎ落とし、ブランドの世界観を指先に宿すためだけに作られた、尖りすぎたアプローチである。
発売は8月22日、公式オンラインストアでの数量限定販売。価格は89.99ドルと、キーキャップ単体としては破格のハイエンド設定だ。しかし、その製造工程を見れば高価格にも頷ける。合成樹脂の精密な成形から細部の彩色に至るまで、職人の手作業による塗装が施されている。蛇の腹部にある鱗の模様から鋭い目元、開かれた口の中に至るまで、厳格な品質管理のもとで徹底的に作り込まれた工芸品と言っていい。
メカニカルキーボードで標準的なMX互換スイッチに対応するため、自社製品にとどまらず幅広いキーボードに装着できる。ただし、三頭の蛇が立体的にそびえ立つ造形ゆえ、人間工学的な押しやすさは一切考慮されていない。Razer自身もそれを百も承知で、普段あまり触れることのない「F12キー」などへの装着を推奨しているほどだ。さらに素材の特性上、ゲーミングキーボード特有のRGBライティングも透過しない。


要するにこれは、入力デバイスではなくデスク上に飾る「小さな彫刻」なのだ。近年、カスタムキーボード界隈で熱狂的な支持を集める「Artisan Keycap(職人キーキャップ)」というニッチ市場。これまで個人クリエイターやインディーズブランドが牽引してきたこの高価格帯領域へ、世界的メーカーが自社のアイコンを引っ提げて正面突破を試みた意義は大きい。スペック数値やライティングの競い合いが一巡した今、デバイス市場の新たな戦場は「所有欲をどこまで刺激できるか」という感情的な価値へ移行しつつある。
機能性や効率ばかりが追求される現代のPC環境において、あえて「押しにくく光らない90ドルのキー」を投入するRazerの割り切り。限定生産という条件も相まって、開始直後の争奪戦は免れないはずだ。
Source:Razer


