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2006年に発売され、世界を熱狂させた任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」の上で、Appleの歴史的OS「Mac OS X 10.0 Cheetah」が産声を上げた。
このニュースが今、技術者たちの間で大きな注目を集めているのは、単なる懐古趣味ではないからだ。ハードウェアの制約を執念のエンジニアリングで突破したこの試みは、クローズドなプラットフォームの可能性を再定義する象徴的な出来事といえる。
開発者のブライアン・ケラー氏が成し遂げたのは、まさに低レイヤー技術の総力戦だ。Wiiに搭載されている「PowerPC 750CL」プロセッサは、当時のiMacやiBook G3に採用されていたチップの直系にあたる。この共通の系譜こそが、不可能を可能にする鍵となった。
しかし、その道のりは険しい。Wiiのメインメモリはわずか88MB。Mac OS Xが本来要求する128MBには遠く及ばない。ケラー氏は専用のブートローダー「wiiMac」をゼロから構築し、メモリ管理を強引に適応させることで、Appleの心臓部であるXNUカーネルを強引に叩き起こした。
さらに技術的なハードルとなったのが、映像出力の規格だ。RGBモデルを前提とするMacに対し、WiiはアナログTV特有のYUVフォーマットを採用している。この隔たりを埋めるため、システム用と画面用の2つのバッファを並列で保持し、毎秒60回の超高速変換を行うという力業を実装。この執着心こそが、テレビ画面に映る色鮮やかな「Cheetah」を支えている。

USB制御の復元も特筆に値する。ソースコードが非公開だった初期のUSBスタックを、古いCVSアーカイブから発掘してコンパイルし、Wiiのアーキテクチャへと無理やり整合させた。その結果、Wiiの前面にあるUSBポートにはキーボードとマウスが接続され、実用レベルでの操作が可能になっている。
2013年から始まったこのプロジェクトは、実に13年の歳月を経て2026年の今日、ついに完成を見た。現代の高性能なPCからすれば、20年以上前のOSを動かすことに実利はない。
だが、本来交わるはずのなかった任天堂とAppleの設計思想が、一個人の手によって融合した事実は、技術への純粋な探究心そのものだ。
ソースコードはGitHubで公開されており、すでに誰でも追体験できる環境が整っている。今回の成功を契機に、古びたハードウェアに新たな魂を吹き込む試みはさらに加速するだろう。
Source:Bryan Keller’s Dev Blog

