「とりあえず、一番安いiPad買っておけば間違いないよ」
これまでガジェット相談を受けるたびに、私は判で押したようにこう答えてきました。動画を見て、ネットサーフィンをして、たまに電子書籍を読む。そんな用途なら、無印iPadこそが最適解だったからです。Proなんてオーバースペックだ、と。
しかし、最近飛び込んできたとあるリーク情報を見て、その常套句を撤回しなければならない時が来たかもしれないと冷や汗をかいています。
2026年に登場が予想される「第12世代iPad」。こいつがどうやら、羊の皮を被った狼…いや、見た目は軽自動車なのにF1のエンジンを積んでくるような、とんでもない存在になりそうなのです。
Source:MacWorld
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A19チップ搭載という「事件」
まず、最も理解が追いつかないのが心臓部であるSoCの話です。リークによると、第12世代iPadには「A19」チップが搭載されるとのこと。
ピンと来ない人のために補足すると、これは2025年秋に発売されるであろう「iPhone 17」と同じチップです。これまでのAppleは、無印iPadには数世代前の型落ちチップを載せてコストを抑えるのが定石でした。
それが、最新のiPhoneと同じ脳みそを積んでくる。これはAppleのヒエラルキーにおいて、革命というか、もはや下克上に近い事態です。
なぜそんなことをするのか。理由は「Apple Intelligence」、つまりAIです。

メモリ8GB化が示唆するAIの未来と現実
チップの強化に合わせて、メモリも現行の6GBから8GBへと増強される見込みです。これが何を意味するかというと、デバイス上で高度なAI処理を行うための「最低ライン」をクリアするということです。
ここで面白い矛盾が生まれます。スペック上は「Apple Intelligence」を動かせる体力を手に入れるわけですが、Appleがそれを「許す」かどうかは別問題です。現状、AI機能はiPad AirやProといった上位モデルの特権となっています。
もし、最も安価な無印iPadで最新のAIがゴリゴリ動いてしまったら、誰がAirを買うのでしょうか?
この「スペックは足りているのに、ソフトウェアで制限されるかもしれない」という焦らしプレイは、Appleのお家芸とも言えます。
しかし、ハードウェアの基礎体力が上がることは、AIを使わないユーザーにとっても、アプリの起動速度や動作の安定性という形で恩恵があるのは間違いありません。
隠れた本命、N1チップとWi-Fi 7の衝撃
派手なA19チップの陰に隠れていますが、個人的に「生活が変わる」と確信しているのが、Apple自社製の「N1ワイヤレスチップ」の搭載です。
これにより、Wi-Fi 7に対応することになります。
「家のネットなんてそんなに速くなくてもいい」と思うかもしれませんが、Wi-Fi 7の真価は速度よりも「安定性」と「遅延の少なさ」にあります。
家族がリビングでNetflixを見ている横で、自分がオンラインゲームをしてもラグが起きない。あるいはお風呂場の電波が悪い場所でも、途切れずに動画が見られる。
iPad Airと同等の通信機能を、エントリーモデルが手に入れる。これは、iPadを家中のあらゆる場所で使う「デジタルな下敷き」として酷使する私たちにとって、実はAI以上にありがたい進化かもしれません。

発売時期と、誰もが恐れる「価格」の壁
さて、問題は「いつ」「いくらで」買えるのかです。
通例通りであれば、Appleは春(3月頃)にイベントを開催することが多いため、2026年の3月がお披露目のタイミングとして有力です。しかし、ここで不安要素となるのが「メモリ価格の高騰」です。
高性能なチップを積み、メモリを増やし、最新の通信チップを載せる。これで価格が据え置きなら慈善事業ですが、Appleは営利企業です。さらに世界的な半導体不足やインフレの波も収まっていません。
残念ながら、これまでのような「4万円台、5万円台で買えるタブレット」という感覚は、過去の遺物になる可能性が高いです。
第10世代での値上げが記憶に新しいですが、第12世代は「性能も上がったけど、価格も立派なミドルレンジ」という位置付けになる覚悟をしておいた方がよさそうです。

