はじめに
中国のスマートフォン市場に、新たな風が吹き始めています。数週間にわたる期待感を煽るティーザーの後、OnePlusが投入した「OnePlus 13T」。このプレミアムコンパクトスマートフォンが、発売直後から驚異的なセールスを記録し、中国国内における「小型で高性能なスマホ」への強い需要を浮き彫りにしました。
しかし、その熱狂がそのまま世界に波及するかというと、そこには大きな壁が存在するようです。この記事では、OnePlus 13Tの成功を起点に、プレミアムコンパクトスマホ市場の現状と、地域による温度差、そして今後の展望について深掘りしていきます。


OnePlus 13Tとは?

OnePlusは、コンパクトながらもパワフルな性能を備えた新型スマートフォン「OnePlus 13T」を発表しました。2025年4月24日に中国で正式にお披露目され、同年4月30日より販売が開始されています。本モデルは、OnePlus 13シリーズの新たなラインナップとして、特に片手での操作性を重視しつつ、主要なスペックにおいて妥協のない設計が特徴です。
OnePlus 13Tは、手に馴染む約6.3インチのディスプレイを搭載。フラッグシップレベルのプロセッサであるSnapdragon 8 Eliteを採用し、高い処理能力を誇ります。また、コンパクトなボディに6000mAhを超える大容量バッテリーを搭載している点も注目されており、バッテリー持ちを気にすることなく一日中使用できることが期待されます。カメラについても、高画素数のデュアルリアカメラシステムを備え、高品質な写真撮影が可能です。
デザイン面では、OnePlusのこれまでのデザインを踏襲しつつも、一部新しい要素が取り入れられています。特に、従来のAlert Sliderに代わる「Shortcut Key」の搭載は、操作性の面で変化をもたらしています。IP65の防水・防塵性能も備え、日常使いにおける安心感も高められています。
現時点では中国市場での展開が中心のようですが、インド市場には「OnePlus 13S」として投入される可能性が示唆されており、その他のグローバル市場への展開も期待されています。
以下に、現時点で判明しているOnePlus 13Tの主な特徴とスペック表をまとめました。
OnePlus 13Tの主な特徴
- 約6.3インチのコンパクトなディスプレイサイズ
- フラッグシッププロセッサ、Snapdragon 8 Elite搭載による高い処理性能
- 6260mAhの大容量バッテリーと80Wの高速充電に対応
- 高画素数のデュアルリアカメラシステム
- Alert Sliderに代わる新しい「Shortcut Key」を搭載
- IP65の防水・防塵性能
- Android 15ベースのColorOS 15 (中国版) / OxygenOS 15 (グローバル版)
OnePlus 13T スペック表
項目 | 仕様 |
---|---|
モデル名 | OnePlus 13T |
発表日 | 2025年4月24日 (中国) |
発売日 | 2025年4月30日 (中国) |
ディスプレイ | 約6.32インチ OLED, 1216 x 2780 ピクセル, 120Hz リフレッシュレート |
プロセッサ | Qualcomm Snapdragon 8 Elite |
RAM | 12GB / 16GB (LPDDR5X) |
ストレージ | 256GB / 512GB / 1TB (UFS 4.0) |
リアカメラ | デュアルカメラ: 50MP (広角, OIS) + 50MP (望遠, 2x光学ズーム) |
フロントカメラ | 16MP |
バッテリー | 6260mAh |
充電 | 80W有線充電 |
OS | Android 15 (ColorOS 15 / OxygenOS 15) |
防水・防塵 | IP65 |
生体認証 | ディスプレイ内指紋認証 (光学式) |
サイズ | 150.81 x 71.70 x 8.15 mm |
重量 | 185g |
カラー | Cloud Ink Black, Morning Mist Gray, Powder Pink |
その他 | Wi-Fi 7, Bluetooth 5.4, NFC, Shortcut Key |
※上記のスペックは、発表および各種情報源に基づいています。グローバルモデル等で仕様が異なる場合もあります。
OnePlus 13Tが証明した中国市場の「真の需要」

1.衝撃のデビュー:10分で約43億円の売上達成
OnePlus 13Tは、その登場からわずか10分間で2億元(日本円換算で約43億円 ※2025年5月時点の為替レートで概算)相当を売り上げるという、衝撃的なスタートダッシュを切りました。OnePlus Chinaの社長であるルイス・リー氏が語るように、これは単なる成功ではありません。同価格帯の競合製品すべてを凌駕し、さらに同社のオフライン予約注文数においても過去最高記録を樹立したのです。
特筆すべきはその価格設定です。多くのフラッグシップモデルが価格競争を繰り広げる中、OnePlus 13Tは中国市場において2,899元からという、比較的手に取りやすい価格(例:Xiaomi 15の予想価格4,499元)で提供されました。この戦略的な価格設定と製品の魅力が組み合わさった結果、潜在していたコンパクトプレミアム機への関心が爆発した形です。これは、少なくとも中国市場においては、消費者が「ただ安い」だけでなく、「手頃な価格で高品質なコンパクトスマホ」を求めていることの明確な証左と言えるでしょう。
2.「新しいコンパクト」の定義:6.3インチは本当に大きいのか?
「コンパクトスマホ」と聞いて、多くの人がイメージするのはどのくらいのサイズでしょうか?OnePlus 13Tのディスプレイサイズは6.32インチ。数字だけ見ると「大きいのでは?」と感じるかもしれません。しかし、近年のデザイントレンドの変化が、この認識を変えつつあります。
現代のスマートフォンは、縦長のディスプレイ比率(アスペクト比)を採用し、ベゼル(画面の縁)を極限まで細くする「狭額縁化」が進んでいます。これにより、画面サイズが大きくても、端末自体の横幅や全体のサイズは、かつての「より小さい画面」を持つデバイスと同等か、場合によってはそれ以下に抑えられています。
記事の例にもあるように、6.32インチのOnePlus 13Tは、かつて一世を風靡した5.5インチのSamsung Galaxy S6 Edgeよりも、実は全体的なサイズ(縦横の寸法)が小さいのです。つまり、現在の「6.3インチクラス」は、操作性や携帯性において、十分に「コンパクト」と呼べる領域に再定義されていると言えます。

3.中国で花開くコンパクトプレミアム戦線
OnePlus 13Tの成功は、単独の現象ではありません。中国市場では、他のメーカーもこの「コンパクトプレミアム」というカテゴリーに注目し、続々と新製品の投入を計画しています。
- Vivo X200 Pro mini
- OPPO Find X8s
- Xiaomi 15
これらはすべて、6.3インチ前後のディスプレイサイズを持つ、現行世代のプレミアムデバイスとして開発が進められていると噂されています。まさに、中国市場ではコンパクトプレミアムスマホが新たな激戦区となりつつあるのです。OEM各社がこのビジネスチャンスを逃すまいと、開発にしのぎを削っている状況がうかがえます。

4.グローバル市場の「壁」
中国市場での盛り上がりとは対照的に、グローバル市場、特に欧米や日本においては、このコンパクトプレミアムの波はほとんど届いていないのが現状です。前述したVivo X200 Pro miniやOPPO Find X8sは、現時点ではグローバル展開の予定はないとされています。
OnePlus 13Tも例外ではありません。中国での大成功にもかかわらず、グローバル市場での展開は見送られ、インド市場においてのみ「OnePlus 13S」としてリブランドされて発売される予定に留まっています。
では、中国以外の地域で小型のプレミアムAndroidスマートフォンを求めるユーザーには、どのような選択肢が残されているのでしょうか? 現状、主な候補として挙げられるのは以下の3機種程度に限られてしまいます。
- Google Pixel 9 シリーズ(小型モデル)
- Samsung Galaxy S25 シリーズ(ベースモデル)
- Xiaomi 15 (グローバル版・入手性は地域による)
これは、選択肢を求めるユーザーにとっては、非常に「不公平」に感じられる状況かもしれません。しかし、この背景には、メーカー側の過去の経験が影響していると考えられます。
かつて、Asus (Zenfoneシリーズの小型モデル) やSony (Xperia Compactシリーズ) といったメーカーは、意欲的に高性能なコンパクトモデルをグローバル市場に投入していました。
しかし、残念ながらこれらのモデルは、期待されたほどの販売実績を上げることができず、結果的にラインナップの縮小や撤退を余儀なくされました。メーカー側からすれば、「グローバル市場では、コンパクトフラッグシップは商業的に成功しにくい」という学習効果が働いている可能性があります。


まとめ
OnePlus 13Tの中国での目覚ましい成功は、特定の市場におけるプレミアムコンパクトスマートフォンへの強い需要を明確に示しました。洗練されたデザイン、十分な性能、そして比較的手頃な価格が、中国の消費者の心を掴んだのです。
しかし、その熱狂は今のところ中国国内に限定されており、グローバル市場では依然としてコンパクトプレミアムの選択肢は限られています。過去の販売不振から、メーカーがグローバル展開に慎重になっている現状があります。
この状況を変える可能性があるとすれば、それは私たち消費者の「声」そして「行動」なのかもしれません。もし、あなたが本当に高性能なコンパクトスマートフォンを求めているのであれば、現在入手可能な数少ない選択肢(Pixel, Galaxy, Xiaomiなど)を積極的に選択し、購入するという形で、メーカーにその需要が存在することを示す必要があります。
「コンパクトフラッグシップのファンが財布の紐を緩めない限り、このセグメントにおける選択肢は限られたままでしょう」という記事の指摘は、まさに核心を突いています。
中国市場での成功事例が、今後のグローバルな製品戦略にどのような影響を与えるのか、そして限られた選択肢の中で消費者がどのような行動をとるのか。プレミアムコンパクトスマートフォンの未来は、市場の動向と消費者の選択にかかっています。
