かつてGoogle Glassが「未来のデバイス」として登場しながらも、プライバシーへの懸念や奇抜すぎるデザインから世間から厳しい批判を浴び、静かに姿を消したことを覚えているでしょうか。その一方で、MetaがRay-Banと組んだスマートグラスは、機能をカメラと音楽に絞ることで「普通のサングラス」として見事に日常に溶け込み、多くの人に受け入れられました。
しかし、Metaの野心はそこでは終わりませんでした。彼らが水面下で開発していた「次の一手」が、リークされた一本の動画によって、ついにそのベールを脱いだのです。そう、ただ記録するだけではない、ついに“ディスプレイ”を搭載した、真のスマートグラスの登場です。
日本時間で明日、9月17日に開催されるMetaの年次開発者会議「Connect」を目前に控えたこのタイミングで飛び出した衝撃的なリーク。この記事では、その動画から読み解ける新型グラスの驚くべき機能と操作方法、そしてApple Vision Proとは全く異なるアプローチが、私たちの日常をどう変えうるのか、その可能性の最前線に迫ります。


ただのサングラスではない。「見る」から「操作する」へシフトする
今回のリークで最も重要な点は、言うまでもなくグラスにディスプレイが内蔵されていることです。これまでのRay-Ban Metaスマートグラスは、見た風景を撮影し(記録し)、耳元で音楽や通話を楽しむ(聞く)デバイスでした。しかし、ディスプレイが搭載されることで、その役割は根底から覆ります。
リークされた動画では、ユーザーがMeta AI(Metaの人工知能アシスタント)を呼び出し、グラスの視界に映し出された情報を操作する様子がはっきりと確認できます。これは、デバイスが「記録する」だけのツールから、「情報を視覚的に表示し、対話的に操作する」ための、本格的なAR(拡張現実)デバイスへと進化することを意味します。
これにより、例えば以下のような体験が現実のものとなるでしょう。
- 視界に直接表示されるナビゲーション
スマートフォンの画面をいちいち確認することなく、進むべき方向が目の前に矢印で示される。 - リアルタイム翻訳
外国語の看板やメニューに視線を向けるだけで、翻訳結果がテキストでオーバーレイ表示される。 - 重要な通知の確認
LINEのメッセージや着信通知が、視界の隅に邪魔にならない形で表示され、スマホを取り出すことなく内容を把握できる。
これは、スマートフォンが私たちの生活に不可欠なものになったように、デジタル情報と現実世界をシームレスに繋ぐ、新しいインターフェースの始まりなのです。

手ぶらで“指パッチン”操作?「EMGリストバンド」という新しい答え
では、ディスプレイに表示された情報をどうやって操作するのでしょうか?Apple Vision Proが、空間に浮かぶウィンドウを実際の手でつまんだり弾いたりして操作するのに対し、Metaは全く異なる、しかし非常に興味深いアプローチを採用しました。それが「EMGリストバンド」です。
EMGとは「筋電図」の略で、筋肉が動く際に発生する微弱な電気信号を検知する技術です。このリストバンドを手首に装着することで、脳から指先に送られる「つまむ」「タップする」といった指令を、指が実際に大きく動く前に読み取ることが可能になります。
つまり、Vision Proのように腕を顔の前に持ち上げて大げさなジェスチャーをする必要はなく、机に手を置いたまま、あるいはポケットに手を入れたまま、指先をわずかに動かすだけでグラスを操作できる未来が訪れるかもしれません。これは、公共の場でスマートグラスを操作する際の心理的なハードルを劇的に下げ、より自然で、社会に溶け込みやすい操作体系と言えるでしょう。
カメラで手の形を認識するVision Proと、筋肉の信号を読み取るMeta。どちらがスマートグラスの標準的な操作方法となるのか、巨頭同士の思想の違いが鮮明になった点も、今回のリークの大きな見どころです。

Google Glassの失敗から学び、Vision Proの先を行くか
「顔にスクリーン」と聞くと、多くの人がGoogle Glassの失敗を思い出すかもしれません。しかし、Metaはそこから多くを学んでいるはずです。Google Glassが失敗した大きな要因は、いかにも「ガジェット」然としたデザインと、常に撮影されているかもしれないという周囲への威圧感でした。
MetaはRay-Banとの協業により、「ファッション性」と「テクノロジー」を融合させる成功体験を持っています。新型グラスも、この路線を踏襲し、一見しただけではスマートグラスとは分からない洗練されたデザインで登場する可能性が高いでしょう。
また、もう一つの巨人AppleのVision Proとの比較も欠かせません。約50万円以上という価格で、現実世界と仮想世界を融合させる「空間コンピュータ」という壮大なビジョンを掲げたVision Proに対し、Metaの新型グラスは、リーク情報によれば800ドル(約12万円)前後と、より現実的な価格帯を狙っています。


