毎年、秋の訪れとともに私たちの心を躍らせてきた、Appleの新製品発表会。その中でも、日々の生活に最も密着したデバイスであるApple Watchの新作には、誰もが大きな期待を寄せていたはずです。
しかし、2025年。ベールを脱いだ「Apple Watch Series 11」の姿に、正直なところ肩を透かされたような感覚を覚えたのは、私だけではないでしょう。
心臓部であるチップは据え置き、見た目の変化もほとんどないマイナーアップデート。聞こえてくるのは「堅実な進化」という言葉ばかり。しかし、私たちがAppleに求めていたのは、そんな”無難な”進化だったのでしょうか?
「これって、本当に今、買い替える意味があるの?」
そんなやるせない疑問を抱える、すべてのApple Watchユーザー、特にSeries 10やSeries 9をお使いのあなたのために。この記事では、期待と現実のギャップを冷静に見つめ、Series 11の変更点を徹底的に分析。本当に「買い」なのか、それとも賢明な「待ち」が正解なのか、その答えを導き出していきたいと思います。
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Apple Watch Series 11 と Series 10 を比較

衝撃の事実:頭脳(チップ)はまさかの「据え置き」という禁じ手
今回のアップデートで最も衝撃的だったのは、間違いなくこの点でしょう。Apple Watch Series 11には、なんと前モデルのSeries 10と全く同じ「S10チップ」が搭載されているのです。
これは、Apple Watchが誕生して以来、前例のない異例の事態です。
これまでAppleは、毎年着実にチップを刷新し、処理速度の向上、新機能の追加、そして体験そのものの進化を私たちに見せてくれました。アプリの起動が少し速くなる。操作への反応がより滑らかになる。そんな小さな感動の積み重ねが、新しいモデルへの買い替えを正当化する大きな理由となっていました。
しかし、Series 11ではその”進化の核”が失われてしまったのです。つまり、日常的な操作感やパフォーマンスにおいて、Series 10から劇的な向上は期待できない、ということ。
これは、新しい体験を求めていたユーザーにとって、あまりにも大きな失望と言わざるを得ません。Appleはなぜ、自社のスマートウォッチシリーズにおける”進化の伝統”を破るという決断を下したのでしょうか。その答えは、他のわずかな変更点から探るしかなさそうです。
特性 | Apple Watch 10 | Apple Watch 11 |
---|---|---|
チップ | S10 | S10(同じ) |
古典的な自律性 | 18時間 | 24時間 |
省エネモードでの自律性 | 36時間 | 38時間 |
急速充電(15分) | バッテリー寿命は8時間未満 | バッテリー寿命は8時間(一晩) |
睡眠追跡のための急速充電 | 30分×8時間 | 5分で8時間 |
スクリーンの強度 | Ion-X強化ガラスディスプレイ | 前作から2倍の強度を誇るIon-Xガラス+サファイアバージョン |
リサイクルガラス | 0% | 40% |

バッテリー性能の進化
チップ据え置きという大きなマイナスポイントがある一方で、手放しで評価できる点もあります。それが、バッテリー性能の着実な進化です。
- 通常使用時の駆動時間
- Series 11: 最大24時間
- Series 10: 最大18時間
- 低電力モードでの駆動時間
- Series 11: 最大38時間
- Series 10: 最大36時間
Series 10では、1日使って帰宅する頃にはバッテリー残量が心許なくなるシーンも少なくありませんでした。しかしSeries 11では、通常使用で丸1日(24時間)持つようになったことで、精神的な余裕が大きく生まれます。これは、単なる数字以上の価値があると言えるでしょう。
さらに注目すべきは、充電効率の劇的な向上です。
- 15分の充電で最大8時間使用可能
- 睡眠記録(8時間)に必要な充電時間は、わずか5分(Series 10では30分)
「あ、寝る前に充電し忘れた!」そんな絶望的な朝でも、着替えて顔を洗っているわずか5分の充電で、その日の夜の睡眠記録までしっかり取れる。この安心感は、Series 11が持つ最大のメリットかもしれません。パワーや速度といった派手さはありませんが、日々の生活に寄り添う”地味で堅実な”進化がここにあります。

日常の安心感を高める「画面のタフネス化」
毎日腕に着けるものだからこそ、気になるのが耐久性。特に、不意にどこかにぶつけてしまい、画面に傷が入った時のショックは計り知れません。Series 11は、そんな日常のヒヤリハットを軽減してくれます。
Series 11の標準モデルには、傷への耐性が従来比で2倍に強化された「Ion-Xガラス」が採用されました。さらに、ステンレススチールやチタニウムといった上位モデルには、ダイヤモンドに次ぐ硬度を誇る「サファイアクリスタル」が用意されています。
デスクの角にぶつけてしまった時、カバンの中で鍵と擦れ合ってしまった時。Series 10のクラシックなスクリーンではヒヤッとした場面でも、Series 11なら「まあ大丈夫だろう」と思える。この精神的な負担の軽減は、高価なデバイスを長く、美しく使い続けたいユーザーにとって、非常に重要なポイントです。

Appleの哲学を映す、環境への小さな一歩
性能には直接関係ありませんが、現代を生きる私たちが無視できないのが、環境への配慮です。Appleはこの分野でも新たな一歩を踏み出しました。
Series 11の画面には、実に40%もの再生ガラスが使用されています。ちなみに、Series 10での使用率は0%でした。
これは、Appleが自社製品のライフサイクル全体における環境負荷の低減に、本気で取り組んでいる証左です。自分の選んだ製品が、未来の地球環境に少しでも貢献している。そう思えることは、製品への愛着をより一層深めてくれるのではないでしょうか。

それでも、あなたが今Series 11への買い替えを急ぐべきではない理由
さて、ここまでSeries 11の進化点を細かく見てきました。バッテリーの持続時間、充電速度、画面の耐久性。どれも確かに魅力的で、ユーザーの利便性を高める堅実なアップデートであることは間違いありません。
しかし、それでも私は、Series 10(あるいはSeries 9)のユーザーが今、慌ててSeries 11にアップグレードすることをお勧めしません。
理由はただ一つ。体験の根幹を司る「頭脳(チップ)」が同じだからです。
Apple Watchは、もはや単なる時刻表示や通知確認のデバイスではありません。健康管理のパートナーであり、コミュニケーションツールであり、時には私たちの命を守る存在にもなり得ます。その多岐にわたる体験のすべては、チップの性能によって支えられています。その心臓部が変わらない以上、Series 11で得られる新しい体験は、残念ながら限定的と言わざるを得ないのです。
では、落胆して終わりなのでしょうか?いいえ、むしろここからが本番かもしれません。
提供された情報の中に、非常に興味深い一文がありました。「今回のApple Watchで一番大躍進をはたしたのは、Apple Watch SE 3ではないでしょうか」と。
もし、今年のApple Watchの”真の主役”が、フラッグシップのSeries 11ではなく、大幅な進化を遂げたと噂される新しい「SE」だとしたら?なんといっても10や11と同じS10チップを搭載し、常時表示機能も搭載しています。
今あなたが買い替えを検討しているなら、その選択肢をSeries 11だけに絞るのは非常にもったいない。一度立ち止まり、視野を広げて、Apple Watch SE 3を含めたラインナップ全体を見渡してみてください。
