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Appleが描いてきた「折りたたみデバイス」の青写真に、大きな影が差し始めている。9月のiPhone Fold(Ultra)発売という歴史的転換点を前に、長年噂されてきた20インチ超の「巨大折りたたみiPad」が、製品化されぬままお蔵入りする可能性が濃厚になってきたからだ。
夢のデバイスとして語られてきたこのプロトタイプは、広げれば約20インチ、まさにMacBookを丸ごと1枚のスクリーンにしたような圧倒的な作業空間を誇る。Samsung製の高品質OLEDを搭載し、閉じれば通常のiPadサイズ、開けばプロのクリエイターを唸らせるキャンバスへと変貌を遂げる。
しかし、現実は甘くない。最大の壁は、1.6kgにも達するその重量だ。現行の13インチiPad Proが約600gであることを考えれば、もはや「タブレット」としての軽快さは微塵も感じられない。
2026年9月にAppleの新CEOへと就任するジョン・ターナス氏にとって、このプロジェクトは自身がハードウェア部門を率いていた頃の肝煎りだったはずだ。だが、経営の舵取りを担う立場になれば、話は別だろう。
技術的なハードルは依然として高く、画面中央の折り目問題やヒンジの耐久性、そして「この重い板でどうタイピングさせるのか」という人間工学的な難題が解決されない限り、ゴーサインは出せない。

さらに追い打ちをかけるのが、その想定価格。欧州での予測は2,500ユーロから4,500ユーロ、日本円に換算すれば40万円から70万円を超える超弩級の価格設定になる。現行のM5搭載iPad Proが安く見えるほどの価格帯で、果たしてどれだけの市場が見込めるのか。一部の熱狂的なファンや映像制作のプロには刺さるだろうが、大衆化には程遠い。
当初は2028年の登場が期待されていたが、最新の情報では2029年以降、あるいは開発そのものの無期限停止すら囁かれている。AppleはかつてAirPowerを断念した時のように、完璧を求めるがゆえに野心的なプロジェクトを葬り去る潔さも持っている。
折りたたみiPhoneが市場を席巻しようとする一方で、巨大iPadは「究極のニッチ」として歴史の影に消えるのか。それとも、これまでの常識を覆す軽量化という魔法をかけて、数年後に我々を驚かせてくれるのか。現時点では、Appleの実験室に眠る「最も高価なプロトタイプ」で終わる可能性が高いと言わざるを得ない。

